ヒノコムの世界 4
意識が鮮明になる。
続いて、疑問符が湧き出る。
見慣れた夜の部屋だ。
カーテンを閉めた窓。
本棚に並ぶ背表紙。
机。
ただ、一つ違う。
音がしない。
「あれ…?」と口にした声は耳にも届かず、確かに口にしたのにという記憶だけを残した。
転落。
景色が回り、渦になって床が抜け落ちる。
身動きができないまま。
「ねえ、京香」「京香ちゃん…」「京香!」
彼女を呼ぶのは誰の声か?忘れている。知らないでいる。塞いでいる。
ネオンの輝きで目が痛くなる繁華街。
見たことある気がするけどなんだっけ?と、京香が考えていると、東島と車体に書かれたナンバープレート1298のタクシーに、赤いフリルを揺らしながら少女が乗り込んだ。
合点がいく。
あぁ、ヒノコムが魔法少女さしみの世界になっいてる。
同じ東島1298のタクシーに魔法少女さしみが乗り込むシーンが三面鏡や万華鏡のように同時に進行する。
夏休み前、クラスの話題は魔法少女さしみで持ち切りだった。
唐突に始まった深夜アニメ。
赤と黒のモザイクに覆われた無秩序としか言えないオープニング。問題発言で進行する本編。
最終回を迎えた黒牟田初郎が主演のドラマとバトンタッチして始まった魔法少女さしみ。
クラスの話題を占める割合は半々といった所もここでは反映されていた。
彼もまた同じ造形で増殖していた。
元々白い肌が薄っすらと青い。
長い間、椅子に座ったまま動かずで足の方に血が溜まったのだろう。
たまに立ち上がる度にふらついて倒れかけた。
「なにをしてるんだ…」
彼の代名詞となったセリフを何人もの黒牟田が呟く。
さしみでも黒牟田でもないのは自分を含んで若干名。
心さみしく、置いてきぼりにされている疎外感。
今からでもやっぱり私もさしみになろうか悩む少女。
「ねえ、京香」
絡まっていく思考回路を砕いた声の主はどこか?
背後に頭上を目線を移してもこちらを向いている人物は見当たらない。
カランと短い鐘の音。
友達になった人物からの呼び出し音だ。
真っ先に浮かんだのはレディだった。
次の瞬間、昼休みの教室で今夜のヒノコムを誘った際に「すまんな!今日は用事あるんや!」と顔の前で手を合わせた姿を思い出した。
では、誰か?
こんな私とわざわざ呼び出したのは一体誰かと警戒心が身を固くさせる。
呼び出した人物の映像が鮮明になっていく。
「えっ……?」
相手は神谷さや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます