鬼童丸おじさんのお店

「はぁ?幽霊を見た?」

オカルト好きなら飛び付く話題だと思ったのにMotoさんのこの対応はなんだ。

あれだ。塩だ。塩対応だ。

水分を持っていかれて干からびちゃいそうだ。

「Motoさんも同じ中学校の卒業生だから何か噂とか知らないかなって」

また怠そうに煙草を吸ってるし。

「はー、幽霊ねぇ。あるよねぇ、学校って。死んだ生徒が出るとか。かったるいのがどんな学校にもあるんだぁねぇ」

ふーって紫煙を吐き出す。

おじさんはその後ろで楽しそうな顔をしている。

「逆に聞くけどさ、姪っ子ちゃんは幽霊とか信じてるん?」

突然聞かれても…。

うん……幽霊は信じている。

幽霊というより、こう、魂というものを信じるように心がけてはいる。うん。

「姪っ子ちゃん、思い込むと面白い顔するんだねぇ」

にやにやと憎たらしい笑みを浮かべてまぁ嬉しそうなことで。

「んで、今日はメリケンなのに貧乳少女はいないのな」

よくもまぁ、レディがいたら怒っていたであろう言葉がすらすらと出てくることで。

「誘ったけど用事があるからって断られました」

「ふーん…。用事ねぇ…」

はー…っと一息で吐き出した煙は頭上で薄らいでいく。

「てかさ、姪っ子ちゃんは夢とかは?」

「よくみます。こう…知らない街を歩いていたり、電車に乗っていたり」

「いやいやいやぁ、そっちじゃなくてさぁ、将来の夢な」

自分でも分かるくらい顔が火照った。

 よくあるんだ。聞き間違えというか相手からの問いに対する解釈の違い。

頭の中で予測変換が悪さしてここから物語の独り歩きがいつも始まる。

「まあ、ええやん。頭の中で物語が始まるのは作家の宿命てやつや」

「私は別に目指してないです!」

ふーんとまた目を細めてMotoさんはしばらく口を閉ざした。

「京香はなんか夢とかあるのか?」

叔父さんが優しく聞いてくれる。

「特にない…。でも、来年は高校生になるけどその3年間で見つけられるかわからない…。掴みどころがなくて雲みたいにふわふわしてながれいるの…。将来なんてすぐそこなのに…」

叔父さんとは素直に話せる。

 そう、私には将来の夢とか希望のように輝かしいものがない。

流れ行く時の中で街が変わって、取り巻く

環境が分かって、家族構成が変わっても変われない自分に嫌気が差していた。

「まあ、いいんじゃない?人生は自由。うちが高校を辞めたのも自由だし」

煙草を咥えながら誇らしげに語るMotoさんを私は

直視できないでいる。




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