ヒノコム

「えいっ!えいっ!」

まるで雪合戦でもしているような。

「このっ!このっ!」

楽しさが昂って真剣そのものへ移行していくような。

「あんたがっ!怖がらせてっ!」

正座するレンの背後でムノが。

「どうすんのよっ!」

両手で庇っている頭部へお構いなしに振り上げる。

「やめて!またとれちゃう!」

「勝手にとれなさい!」

ピコピコハンマーの気が抜ける軽快な音でも休みなく鳴っていると、ただごとではない気迫が伝わってくる。

 真夜中の月明かりに似た青く、空気が冷たく淀む空間。

「ちょっと!やめてあげなよムノ!」

と、発したはずの音は歪み、細分化して拡散した。

「あーっ!京香だー!」

主人を見つけた愛犬のように駆け寄ってくるレン。彼女が流す涙からは濃い潮の匂いがする。

「京香!甘やかしちゃ駄目!」

「いーもーんだ!べろべろばー!」

少女はまた始まりそうな喧嘩の気配から目を逸らす。

そこにはうごめくなにかがあった。

黒く、生皮のようにきらめく。

不気味ではあるが、なんにでも変わる可能性を秘めた生命の核。

核は見る見る形を変える。

見慣れた顔の輪郭、背恰好、金色の髪に。

見慣れた首元でカールした髪。

見慣れた銀髪。

何度も名前を呼んだ犬の形。

「来てくれたのは嬉しいけど、ここはあなたが来てはいけない陰の世界」

ムノが少女の耳元で。

「ヒノコムを起動していないのに私達に会えてしまう矛盾した世界なの」

レンが少女の耳元で。

「今夜の事は全て忘れて目覚めなさい京香」

双子は同時に囁く。


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