ヒノコムの世界 3-4

双子の登場で利用者たちの間を伝播でんぱする拍手とどよめき。

 「初めて見た」「実在したんだ」の主旨の囁き。

 あとは「ねえ、あの子なに?」と冷ややかな視線を憚らず、遠慮なく向けている。

「なんやお前らは!」

口角を上げる双子の笑みは明確に侮蔑を含んでいた。

「本当に知らないの?それとも虚勢?」

「神様からの寵愛を受ける管理者を?」

棘は有るものの、愛嬌を混じえた凡そ柔和な態度でいたのはここまでだった。

「神様だ?んなもん知らん!どうせ碌なもんやないやろ!」

がちん。と、金属同士がぶつかったような鈍く耳の底へ沈む音を京香は聞いた。

続いて、高く、ぎいっと軋む音。

聞いてるだけで京香は喉の渇きを覚えた。

 レンは観音菩薩のような静かな微笑みを浮かべていた。しかし、纏っている空気は、一息吸い込むと肺まで焼き爛れてしまいそうな熱で、蜃気楼を発生させていた。

 ムノは額に皺を寄せ、真っ赤に鮮やかな唇が歪んだ口元の、白く美しく並ぶ歯を軋ませて怒りを明確に現した。

 辺りの利用者はしんと静まっていた。

京香には皆がキャンバスに描かれた人達に思えた。

緻密で息継ぎまで聞こえてきそうだけど、描かれた景色で実在はしていない。

現実と空想は限りなく接近していて、接近するほどに隔たりが拡張していくような。

「知らないとは」

レンが切り出し

「時に罪である」

ムノが締めくくる。

「今回はここまでにしましょう」

虎生とを睨み付けたままの双子が柏手を打つと、京香の視界は暗転した。

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