ヒノコムの世界  3ー2

白磁の花瓶に色とりどりの切り花が生けられている。

良い香りを放つそれが幾つか並んで、目を楽しませてくれる。

指先で優しく触れると香りが移った。

今更ながら夢の世界でありながら匂いを感じ取れる事に驚いた。

 京香の腹がぐうっと。

最初になんでも出来ると言った双子に「もしかして、食べたいものを想像したら出てきたりするの?」と尋ねれば、揃って目を細めて「食いしん坊」と馬鹿にされるのは想像に難くない。

 白い床と明るい陽射しを取りこむ窓。

揺れる薄緑のカーテンを捲って見ると、外は白い光で一杯。

明るく清潔な待合室で京香は聞いたとおり、レディの姿や声や日々を思い出しながら待っていた。

「おう、京香か。うん。やっぱり京香やな」

シックな革の扉を開け、京香を認めた第一声。

コンプレックスの雀斑を消して、少しだけ大人になった自分を想像した姿。

折角だから、髪もストレートにした。

漠然と、こうかな?とキャリアウーマンの格好。

対して、特に外見が変わっていないレディ。

雑誌のページに載っていたストリート系のぶかぶかな紺の無地で半袖のパーカー。黒のスキニーパンツと良くあっている。

「ねえ、もしかしてさ、適度に言ってない?」

「どんな姿してても判るで。親友やからな」

どこからが冗談で本気なのか判別の難しい返しに、言葉を詰つまらせる京香。

嬉しさの影に潜む言い表せない感情が「ありがとう」を妨害する。

苦しいと思う。

「それとな京香。雀斑な、別に気にせんくてもええと思うで。」

「なんで?あれ、嫌でも目に入るんだけど」

「お前さん、知らんだろうけど結構モテとるで」

「うそ!」

「男子の視線に気付いとへんやろ。明日から意識してみいや。いや、ほんまに」

全身の血管が一気に広がったせいで、頭に運ばれる酸素が通常より減少して立ち眩む。

隅々まで熱さが行き渡り、薄っすらと汗ばむ。

額を手で拭い、できるなら服の下もタオルで拭いたい。

「ほな、行くで!」

腰が抜けて座り込む京香の手を握り、レディは扉を開けた。

 流れ星のように闇を駆ける二人は一筋の光となり。


 


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