日曜日の朝
頭の天辺に鈍い痛みが残っている。
目尻から揉み上げにかかる冷たさ。
私は悲しい夢を見ていたの?
だとしたら、胸の底に沈む重りと刺さる苦しみは?
摘出して目の前に出したとき、なんと呼ぶ?
私は呼び名を知っている。口にしたくない。
背中が汗ばんで気持ち悪い。考えているだけで布団の中の湿り気が増していく不快感。
考えるのを止めよう。
「またなの?」
幻聴だ。囁いたように小さい。聞き取れるかどうかの音量。それでも輪郭が明瞭で声の主が薄ぼんやりと浮かんでくる。
掻き消そうと両手を振り回すイメージで上書きしていく。妄想は霧散していった。
日は既に高く昇っている。
普段より長い睡眠時間を経ても、疲れて起き上がる気力が湧かない。
どうしようかな。不思議とお腹も空いていないからもう一寝入りしようかな。
欲に従って目を瞑るとベットの縁に前脚をかけた花子が頬を舐めた。
息遣いが荒い。散歩に連れてって貰ったなこいつ。
「おーよしよし。花子よしよしよし」
寂しくなって来たのかな?可愛い奴め。全身を撫で回してやろう。
階段を駆け下りる花子を追いかける形で居間に。
追いつかれて観念したのか仰向けになった。
「おーよしよし」
腹を撫で回す。相変わらず硬い毛質の手触り。
日常に触れて安心する。
「京ちゃん貸しいちね」
頭上から降ってきたこの声の主は
「ずっと寝てたもんね。代わりに行ってあげたよ」
そんな
居間のテレビからアップテンポで、音色を色で言い表すなら虹色のメロディが流れてきた。
「はーい!どーも!こんにちはー!」
休日の真っ昼間に相応しいのかそうでないのか。
毎週、この始まりである。
ベテランのお笑い芸人さんの後に女性アナウンサーが笑顔を振りまいて若手芸人の人達が変顔を披露する。
馨ねえが昼ご飯を他所にして食入るように観ている。春ねえがたまに横目で観ている。
それ以外は見向きもしない。
きんきんと脳に直接響く
抗議したところでチャンネルが変るわけでもないし。
午後からどうしようか。予定は入れてないし。テストに備えて勉強をするのが模範解答だけど。
今はしたくない。
まだ頭が痛いのもあるけど、それ以上に見ず知らずの筈のミレイさんとヒノコムでまた出会ったのが引っ掛かって気になる。
「きゃーっ!」
黄色い声がテレビと馨ねえから響いた。
画面一杯の「今話題のイケメン俳優!」の中央にミレイさんが映っていた。
「何をしているんだお前は」
あの時のままの台詞と表情。
テレビドラマのワンシーンのようだ。
言われた側の目鼻立ちがくっきりとした小顔の綺麗な女優さんは泣きそうで、でも走り去ろうとして肩を摑まえてもらったのが嬉しいという顔をしている。
私はヒノコムで同じ表情をしていたのだろうか。
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