朋ちゃん
朋ちゃんは休みの日でも学校の制服のように、きちっとした襟付きの服装で出迎えてくれた。
後ろを離れぬようについて行く。
目の前で首の付け根でくるりとカールした毛先が踊る。
廊下に飾られた抽象的な絵画や窓際で一輪の水仙を挿す首の長い青磁の花瓶に目を配る。
美術館の常設展のようにあれこれと。ジャンルや年代に関係なく飾られる美術品たち。どれひとつとっても、売れば慎ましく暮せばもう働かなくとも生活に困らない金額になりそう。
さっきの人が泥棒さんなら根こそぎ持っていきそうだ。オフィーリアの作者に
盗んでどうするんだろう?
戦利品を自宅に飾って悦に浸るのか?お金に換えて豪遊するのか?なんか薪が焚かれた暖炉の前で丸い氷が入ったグラスで凄く高いお酒を飲みそう。しかも、すっごい高価なバスローブを着ながら。で、高笑いするミレイさん。
あっ、立派な深緑色の額に納められた縦書きの書はちょっと分からない。少なくとも私には価値が良くわからない。
きっと細長い字は有り難い言葉が書いてあるんだろうけど。
「そんなにあちこち首を回していたらポロっと抜けちゃうよぉ?」
この空気が抜けていく喋り方。
聴いてるこっちの力はそれ以上に抜けていく。
国語の授業で朗読に指名されると、その語り口は眠気を誘い教室中で欠伸が飽和する。酸素が欠乏する。
みーんなねんね。ずーっと一緒に。
いや、今はそんな妄想を膨らませている場合じゃなくて。
「だからぁ、本当なんだって!怪しい人がいたの!」
「えー。そんなんだぁ」
「もー。どうしてそんなに他人事なの?」
「だってぇ。私はミレイさんて人、知らないしぃ」
「私だって知らないよお!」
「でもぉ、京香ちゃんがミレイさんて親しげにいったもん」
「それは画家からとった呼び名で」
「へー」
家の中を進んでいても、話は一向に進まない。
この辺で切り上げよう。
到着した朋ちゃんの部屋は本で一杯だ。散らかっているのではなく、きちんと棚に収まっている。
文庫本の背表紙が色とりどりに。時々日に焼けて味わいのある辞典。
朋ちゃんて本当に本が好きなんだよね。学校の放課中は大体読んでいるもん。
「国語の教科書に載ってるお話が読んだ事のある物ばかりでつまらない」と入学して最初の授業で言い放った。
あれには肝が冷えた。
テストの「作者の気持ちが表れているの問題はどこか?」の設問に対して「全部」と解答したのには、ちょっと賛同した。
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