一夜明けて 3
目を閉じれば真っ暗になるのは当たり前。
だから夢だと気付くのが遅れた。
目を閉じた真っ暗闇から地続きで、耳を澄ますと微かな音がする。
なんの音か耳を澄ましてみると。
「ご飯よぉ!」
リビングからのお母さんの呼び声に夢の底から引き揚げられる形になった。
意識を耳に一点集中していたので何倍にも拡張して、衝動で鼓動が乱れる。
何もない夢だったのに。
これじゃあ悪夢を見たときの寝起きと変わらない。
そんな事を抗議したってお母さんは聞く耳を持ったりしないからここらで矛を収めるとしよう。
リビングではお父さんが焼酎の水割りを昼間から飲んで、
「はるねえおはよ」
「んあぁ……」
半分眠りながらまぁよくも麺を啜れるものだと我が姉ながら感心してしまう。
社会人一年目の人間とは皆、小学校の時から同じパジャマを着て休日は遅くまで寝ているものなのかなぁ?そんな訳ないか。
足元で花子が鼻を鳴らしてなにかおこぼれを探しているから、ラーメンの付け合せの茹でたブロッコリーをあげた。
よく噛んで床まで舐めてる。
「
「まだ寝てるに決まってるでしょ」
まぁ、そうでしょうな。
高校三年生になったばかりの馨ねえ。
部活に所属しておらず、家に帰ってきて誰かと長電話して過ごしてばかり。
予定がなければ休日は寝てばかり。
「そんな事よりあんた、ちゃんと寝癖直してから朋ちゃんの家に行きなさいよ。ただでさえ跳ねてるんだから。レディちゃんはさらさらなのに」
「跳ねてるのは遺伝だからしょうがないでしょ!それにレディはモデルやってるんだからスタイリストさんが付いてるの!」
全くもう本当に!
ポーチドエッグになる予定だった卵は丼の中で溶き卵になって散った。
さっと食べ終え丼を流しに置いて、朋ちゃんの家に向かう支度をする。
中学校の通学バックに宿題のプリントと教科書にノートを詰めて。
上下とも学校指定のウィンドウブレーカー。
さっき花子の散歩で汗になったからお姉ちゃんのお下がりの分を。
家と同じ敷地内にあるおじいちゃんの工場に置く自転車で向かう。
「おじいちゃん。行ってくるねー!」
旋盤に向かって仕事をするおじいちゃんには機械の音に掻き消されてしまったのか、返事はなかった。
おじいちゃんが無口なのはいつもの事だし。
それこそ職人というものなのかも。
機械油に塗れた青い作業着を着るおじいちゃんが大好き。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます