一夜明けて 2

ひとりきりで居るとどうも勉強する気にならない。

暇つぶしに廊下を根城とする飼い犬の花子を頭からお腹にかけて撫でる。

 甲斐犬は主人と認めた者にしか懐かないと聞いたけど、誰にでも尻尾を振るこの黒と茶の虎柄には一体、何人の主人がいることやら。

 壁に背をつけて横になって半分眠っていたところを邪魔する形になったけど、邪魔した代わりに存分に撫でてやる。

「よしよし。花子」

腹を向けて両前足を折りたたんで撫でを催促してくる。

「よしよしよし」

この手に伝わるまだ抜けきっていない冬毛の柔らかさと抜けた所の硬さの違いが気持ちいい。

尻尾を強く振って起きた風がくるぶしに当たる。

こうなると最初は気怠げに相手をしていた花子も手を舐めてきたりして、本格的に甘えてくるのだ。

「おーおー。よしよしよし。よしよしよし」

この勢いで散歩にでも連れて行こうか。

お父さんが今朝も行っただろうけど、花子にとって散歩こそ人生なところがあって。

「行く?」

と声を掛けると、急いで起き上がって尻尾を振って真っ直ぐ見つめてくる。

あぁ、本当は行く気はなかったけどこの期待に満ちた目で見られたら仕方ない。

 中学校の青地に肩から手首にかけて白い線が二本入った長袖のジャージに着替える。ズボンはこれまた中学校の銀色のウィンドウブレイカー。

このスタイルは近所の散歩に留まらず、スーパーの買い物から駅前の本屋でもいける。

 赤い首輪をつけて玄関の扉を開けると花子は力一杯駆け出す。

私は後を引き摺られる形になる。

靴の中に入った小石を取り出そうにも、花子は走り出したら止まらない。

途中で花を嗅いだり恐らく他の犬がマーキングした地面の匂いを嗅いだり。

そしてまた走り出す。

「待ってよ花子ー!」

なんて叫んでも。

満足して素直に連れ帰る頃には額に汗が薄っすら。

上着とウィンドウブレイカーを脱ぎ捨てて、またベットで横になる。

 学校の宿題は残ってる。でも、面倒くさいから後でいいや。

今は疲れたから睡眠が一番。

こうして横になると、やっぱりヒノコムって疲れるのかな?

眠れない時のおまじないをしなくてもすっと眠りにつけた。

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