一夜明けて
充電ケーブルに繋がったままの枕元のスマートフォンを手に取って時刻を確認する。いつもの休日の起床時間だ。
朝御飯のトースターで焼かれた食パンと、お父さんが淹れたコーヒーの香りが漂っている。
扉が少し開いているのは、お母さんが朝食の準備が整ったから起きなさいと部屋を訪ねた痕跡だ。
開けたなら締めてくれればいいのに。いつも思う。
開けておいて、朝御飯の匂いを部屋に漂わせる作戦だとは知っているものの。
ベットをくっつけている壁の窓から差す朝日に雀の
全てがここを現実と肯定している。
数回瞬きをして大きくお腹が膨らむまで息を吸い込む。
空気が抜けた自転車のタイヤに注入するように。
力が抜けた体を動かすために。
仰向けのまま腕を伸ばして頭の上で手を握ると、固まった肩甲骨の辺りの筋肉がほんのり熱く心地良い痛みを伴った。
ここまでして漸くベットから起き上がるだけの力が体に戻ってきた。
中学三年生になった四月始めの休日の朝は、暖房器具が動いていないと長袖でも肌寒い。
リビングなら暖房が効いているだろうし、ヒノコムは体力を消耗するのか今朝はいつもよりお腹が空いている。催促なんてされずとも階段を駆け足で降りていく。
「おはよう」
長方形の木のテーブルの上には殻がついたままの茹で卵が丸い皿に載ってお母さんはキッチンでウィンナーを茹でている。
トースターから取り出した食パンはまだ温かい。
マーガリンを塗って一口囓り、硝子のコップに注がれたコーヒ牛乳も一口。
「お姉ちゃん達は?」
テレビの前の置き畳で寝そべるお父さんと焼き終えたウインナーを持ってきたお母さんに同時に聞いてみる。
「あの二人がこんな朝早く起きてくるわけ無いでしょ」
と、お母さんはこんなと言うけどもう九時。
おじいちゃんは工場で働いているし、おばあちゃんは畑にいっている。
平日の学校なら一時間目の授業が始まる時間だ。
「それよりあんた、イヤホン付けながら寝るなんて何してたの?」
あぁ、やっぱり聞いてくるか。
これを避ける為に答えが分かりきった質問をしたのに。
「最近よく寝れないからレディが教えてくれた音楽聴いてたの」
「あーそうなの」
この響かない惰性の語り口。
明らかに疑っている。
腹の探り合いが始まる気配だ。
ヒノコムを教えてくれたのはレディだし、催眠の導入を音楽にカテゴリーしてしまえば嘘は言っていない。
ところで
ゲームみたいに友達招待で特典が貰えたりはしないけど、全く見ず知らずの人達に囲まれる中で現実世界の友達が居てくれたらとても心強いから。
「あんたは今日どうすんの?」
「今日は午後から朋ちゃんとテスト勉強」
そうだ、その時に聞くとしよう。
休日の朝のひと時の間、お父さんはテレビを眺めてばかりで一言も発しない。
刻々と時間だけが過ぎていく。
時計の秒針が進む様子を眺めていると不意に不安を掻き立てられた。
学校のテストが休日が明けたら直ぐだからかな?
とりあえず、ご飯を食べたら朋ちゃんの家に行く支度をしよう。
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