ヒノコムの世界
「でも、見ててちょっと可笑しかった」
少女からみて右側が口元を緩め瞼を半分閉じて、ついにさも可笑しいと言わんばかりに真っ白な歯を見せて笑いだした。
だだっ広くて他になにもない空間によく木霊する。
「レンったら、笑っちゃ駄目でしょ?」
肩に手を乗せ静止させようとした左側もついにはつられて笑いだした。
「最初からずっと見ていたけど余りにもね」
話し方も仕草も同じなのでこの双子、からくり人形の類で背中から相互を繋ぐ金属の歯車とゼンマイにカムでもついているのかと思えてしまうほど。
しかし、正面にも機械的な球体関節や構造は見当たらず。
「紹介が遅れたわ。私はレン」
「紹介が遅れたわ。私がムノ」
少女を真っ直ぐ見据えて言い終わるとまた首を右に左に首を傾げて正面に。やたら繰り返しているがこの儀式めいた行動にはどんな意味があるのか?
「さっきも言ったけど、ここがヒノコムの世界。あなた自身の意思で来たはずよ?」
また右側、レンから話しだした。
「自身の意思で来たはずなのに、あの慌てぶり。思い出したらまた笑えちゃうほど」
ムノが半笑いで続ける。
少女の内心は穏やかではなかった。
レディったら、なんで教えてくれなかったのと。
「あぁ、すまへんかったな!」と歯をにかっと露わにして高らかに笑う顔が脳裏に浮かぶ。
「次はあなたの名前を教えて」
どうやらレンから話し出すのが双子の決りのよう。
「あなたの名前を知りたいの」
ムノが同じ意味合いの台詞を。
二人してじっと見詰める。
「わた……わたし…は。
急に尋ねられて京香は声をふり絞って答えた。
自分の名前を自分で発する。本来、名前とは他者からかけられるものであり、自己紹介というのは内面の発露を強制的に行わされているようで何度やってもどうにも馴れない。
「素敵な名前ね」
「綺麗な名前ね」
そして双子はまた首を右に左に正面にを3回繰り返した。
さっきからからかわれてばかりだったので、褒められたのが嬉しかったが、少し懐疑心が底に横たわり。
「それじゃあ、ヒノコムの説明をするわ」
「この催眠夢で繋がる世界について全部」
まだ右に左に正面に。
「ムノが今言った通り、この世界は京香が聴いている催眠で繋がっているの」
「リアルタイムで同じ催眠に浸っている人達とヒノコムを共有して交流するの」
京香は思い出していた。
心臓が高鳴って中々寝付けなかったこと。
レディが教えてくれたアプリが魔法としか思えなくて疑っていたけど、でも確かめたくて。
ダウンロードしたアプリのアイコンは、確か目の前の双子が向かい合っているデザインだった。
普段から僅かな物音で目が覚めてしまうのに音楽を聴きながら眠るなんてこと出来るかな?と心配したが、直ぐに寝付いた事も。
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