双子

少女には、突然現れたようにみえた。

しかし、最初から歓迎すべく居たのだ。

「おはようと言うべきかしら?」

「こんばんはで良いのかしら?」

澄んでころりと明るい声の主は同一の姿形をした双子。

マルセイ人形のような白く滑らかな肌。目の下の雀斑そばかすがコンプレックスの少女からしたら羨ましい限り。

 海の底まで透き通る青の瞳。まん丸で目尻が少し吊り上がっている。小さく均整のとれたあどけない顔。

缶詰に詰められた輪切りのパイナップルのように正円で半分に切られた端は遥か遠くテーブルの内側に並んで座る。後ろの壁は鏡。

右は白地のチャイナドレス。対をなすテニスボールほどのお団子頭には黒地のカバー。

左は黒地のチャイナドレス。対をなすテニスボールほどのお団子頭には白地のカバー。

どちらも胸に金糸の桜の花弁の刺繍が施されている。

黒曜石の黒と絨毯の赤が続く世界は、鏡の前に座る双子に注目を集める舞台装置の役目を果たしていた。双子を奉るために存在してると言うべきか。

 少女が目を奪われたのはその巧みな刺繍ではなくて、刺繍は目を奪うには充分な意匠に溢れるものだったが、それ以上となったのがドレスの上からでも分かる胸の膨らみだった。

右が「そんなに気になる?」

左が「そんなに欲しいの?」

同時に首を一拍子でたんたんたんと右に左に傾けて正面に。

互いに向き合って右に左に正面に。

また正面の少女に向かって右に左に正面に。

その少女は見入っているのを指摘された羞恥と苦痛から、視線を双子の頭上に向けた。

 ことわざとしてでなく、形容動詞として一部しか見えていなかったという意味で「木を見て森を見ず」と言い表したい。

双子の後ろ姿を映しているのは鏡かと思っていた。

違った。

 鏡はずっと首の筋がりそうになるまで上に続いて、目を凝らすと見透せる先は端が狭まっていく楕円に。つまりこれは、超巨大な姿が映るほど磨かれた鉄の円柱で、ずっと上は光が届かず、その先は見透せず。

そういえば、この明るさの光源はどこにあるのだろう?と。

壁にも床にも見渡す限り照明器具は無いようだ。

なんて辺りを観察していると、少女は急に肩を下に引っ張られたように感じた。慣れない重さ。

視線を自分の体に戻すと、胸が少し膨らんでいた。

いや、何これ!?どうして!?といくら触ってみても確かに膨らんでいるものは膨らんでいる。

「望めばなんにでもなれる。なんでも出来る。ヒノコ厶へようこそ」

慌てふためく少女に意を介さず。首を傾げたときと同じように、双子は同時に一句違わない挨拶をした。

 少女が双子に感じた人形のようだと感じた第一印象は容姿ではなく、血の通わない作り物に似る冷たさとしてだったかもしれない。 

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