15 幼なじみを探そうよっ

「いねぇ……。」


たこ焼きを片手に、悠加と別れたはずの場所に戻ってきたわけだが…。

そこにはもうすでに、彼女の姿はなかった。


「マジかよ。はぐれたかぁ…。」


この人混みの中で一人の少女を探し出すってなかなかの無理ゲーだぞ。


俺はその場に突っ立っていても仕方ないので、たこ焼きを袋にしまって、走り出した。


「…いねぇな。」


待ち合わせ場所に戻っても、その姿はない。

他にどっかいそうな場所……。


俺は当てもなくフラフラと明るい屋台の後ろを歩いていく。

悠加が誘拐とかナンパとかそういうのにあってなければいいけど………。


「……はぁ…いねぇ……。」


ぐるっと一周したけど、見慣れたはずの幼馴染の姿はどこにもない。

俺は汗を拭いながら、膝に手をついて呟いた。


「おう、何してんだ?」


うつむいている俺の頭越しに、そんな元気な声が聞こえる。


「中山っ!!」


顔を上げると、アニメキャラのお面をかぶった状態の中山が居た。


「いいとこに。悠加しらねぇ?」


俺は彼の肩を掴んで尋ねる。

こいつなら、知ってるかもしれない…


「おぉさっきあっち行ったぞ。」


その予想は的中したようで、中山は山の神社の方を指差して言う。


「ありがてぇ!」


俺は彼に感謝の言葉を述べながら、走り始める。


「おぅ!!ファイト!!」


事情がわからないはずだが、背中越しに中山の応援の声が聞こえた。


 ◇ ◇ ◇


「…………やっぱいねぇ。」


荒ぶる息を抑えつつ、呟いた。

中山が指差した山の麓までノンストップでかけてきたのだが……。


周りにいるのはカップルや家族連ればかり。

探し人の姿はおろか、女子高生の一人姿すら見かけられない。


「どうすっかな?」


四方八方をリア充に囲まれているのは、独り身の俺にはなかなかにきつい。


「一回上まで行くか」


この山を登ったところには神社がある。

そこまでは階段をかなり登らなきゃいけないので、ここから見た感じ数人しか居ないが……。


「なぁ行ってみよ」


俺は黙って立っているのはムズムズして、後先考えずにとりあえずで石の階段を登り始めた。


ここの神社かなり有名なとこなので、階段もちゃんと整備されていて苔とか雑草とかが生えていることはないのだが。

なまじ距離があるから、どれだけ環境が整っていても息があがってくる。


「はぁ…はぁ………。」


俺は肩で生きをしながら、階段をなんとか登りきった。

なんかすんごい達成感なのだが、俺の目的はここに登ることじゃなく、綿あめ片手のボクっ娘シンデレラを見つけることなんだよな。


「あっ!」


俺が恐れ多くも神社の前でキョロキョロとしていたら、そんな声が聞こえた。


「ゆうと!!!」


その聞き覚えのある声は酸素切れによる幻聴なんかではないみたいで、今度はたしかに俺の名前が呼ばれた。


「ここにいたのか…。」


俺は安堵の声を漏らして、頭を掻きながら声のあった方を見る。


「ごめん、分かんなかったよね。」


神社の端の平らな岩みたいなところに腰掛けて、謝る悠加。


「いや、良いよ。ほら。」


俺は申し訳無さ気な彼女の正面に立って、袋ごとたこ焼きを渡した。


「あ、ありがとう。」


いや、本当に見つかってよかったよ。

ここにいなかったら真面目にポリスメーンに相談することも考えてたし。


「…………。」


お互いに言葉を発さないので、沈黙の時間が流れる。

といっても、少なからずいるカップルたちの会話とか笑い声があるし、夏の虫の鳴き声が響いているので、完全な無音ではないのだけれど。


「……………あのさ、」


数分の、実際には数秒かもしれないけれど、体感ではそれくらいの沈黙の後、悠加が何か切り出した。


「なに」


俺は隣りに座る彼女の体温を腕で感じながら、そう返す。

なんとなく、ほんのりとだけど、彼女の言いたいことがわかったような気がしていた。


「前に話したさ」


空を見上げれば、零れ落ちそうなほどに満天の星が輝いている。

悠加の優しくて、それでいてどこか切なげな声が響く。


「うん。」


俺は空を見たまま相槌を打った。

熱くなってきた頬を夜風と汗が冷やしてくれている。


「僕が僕って言い始めた理由、分かる?」


俺よりも背の低い彼女が斜めに見上げるから、自然と上目遣いになった。

吸い込まれそうな瞳を俺はできるだけ見つめ返して、


「分から………」


『分からない』そういつも通りごまかそうとして……………とどまった。

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