14 幼なじみと夏祭りいこっ

「暑」


時は過ぎて5時ちょうど。


「おっ、いたいた。」


待ち合わせ場所で呟いていると、そんな声が聞こえる。


右を向けば、待ち合わせ相手が立っていた。


「おぉ、先に来てたか。待った?」


若干汗ばむ彼女は、明らかに俺より先に来てた感じだ。


「いや。さっき来たとこだよ。あれさ、これ花火いつなん?極論いえばそれだけ見たら帰ってもいいんよ。」


ハハハとはにかんで悠加が言う。


「マジかよ。そのくせして、浴衣なんて着てんじゃん。」


両手を後ろに回した彼女は、白と青と黄色の中々にきれいな浴衣を着ていた。


「おっおう。どうよ?かわいいっしょ。」


何故かすこし戸惑って、悠加はその裾を掴んで笑う。


「おん。いつもも可愛いけど、今日は特段に可愛いな。」


悠加は顔はかなりの美人さんだから、馬子にも衣装とも言うし、こういうちゃんとした衣装を着ればその綺麗さが際立つ。


いや、この場合綺麗というか、可愛いかな?


「…………。」


フリーズしたように固まった悠加を片目に、俺は道中で渡された花火大会のチラシを見る。


「あったあった。花火、7時だってさ。」


「な、なるほ。じゃそれまでどうする?行きたいとこは?」


俺がチラシの右下を指さしてアピールすると、彼女は再起動して、普通に返してくれた。


何なんだ?一世代前のPCごっことかいう新手の一人遊びか?


そうならば、中々に面白そうなのでやり方を教えてほしい。


今度一人のときに、是非ともやってみたい。


「飯は妹様が作ってくれたからいらねぇし。こういうとこのものってスイスも驚きの物化してるしな。」


ほんと、永世中立国も宣戦布告レベルよ。


「それ。コーラが200円とかするのは流石にきついよね。」


屋台の記憶を思い出したのか、苦い表情をして悠加が呟く。


「悠加は?」


こいつ、痩せてるくせしてなかなかに食うことが好きだからな。


屋台で出てくるあのなんとも言えないクオリティーの焼きそばとか大好物だろ。


「僕はねぇ。そうだな、綿あめとたこ焼きだけかな。」


「おぉ、メジャーなとこいくやん。」


リンゴ飴とかきゅうりの塩漬けとか、賛否両論別れがちなやつに行くかと思ってた。


「まぁ僕も普通の女の子だし?」


小首を傾げて悠加が言う。


「なんで疑問形?まぁいいよ。混むから早めに行こうぜ。」


俺はそう言って立ち上がる。

あかん、立ちくらみが来た……。


「オッケー」


なんとか血液を運んだ俺の横で、悠加が立とうとするが慣れない下駄を履いてるからか、上手くできずにふらついている。


「ほら。」


俺は右手を差し出す。


「あ、ありがと。」


無事に立ち上がった悠加が、少し照れながら呟いた。


『そういうとこは気が利くのね』


そうぼそっと言ったのを俺は聞き逃さない。


そういうとこはってなんだよ!!

いつでも気が利いてるだろが!!!


俺は若干傷ついた。

 ◇ ◇ ◇


「おじちゃん、綿あめ一つ。」


少し歩いたとこの綿菓子やさんで、悠加が買っている。


「はいよ。デートかい?」


そして、それを少し離れたところから見守る俺。


なんやろ。何故か幼馴染に父性感じてるんやけど。


偉い偉いと頭とか撫でなくなっちゃう!!


「まぁそんなとこ。」


ちょっと照れながらも笑って答える悠加。


ちょっと、お父さん聞いてないぞ!!

デートって誰とだよ?


「おぉ、若いねぇ。はいこれ。」


お父さん許さないよ。

最低でも俺より身長高くて、頭良くて、性格良くて、俺よりもブスじゃないとね!!


「ありがとうございまーす。」


渡された綿あめを持って嬉しそうに俺の元へ来る悠加。


…………あっ、俺とだったか。


それならお父さんあんしんやわ。

だって、俺やもん。


「思ったよりデケェな。」


悠加の顔を超える大きさに、かなり驚いた。

これで500円はかなり安いのでは?

まぁ、原材料ザラメやしいいのか。


「そうだね、もっと小さいかと思ったよ。」


はむっと巨大綿菓子に噛みつきながら悠加が言う。


あぁ、そんなんしたら口の周りがベタベタに……。


「まぁデカい分はいいだろ。」


俺は彼女の口周りを心配しながら、返答した。


「そうね。」


「うまいか?」


何な他人が食べてると気になるのが人というもの。


実は生まれてこの方綿菓子とか食べたことなかったりする。


なので余計に気になって、味を聞いた。


「うん。甘いよ。」


普通に言う悠加。


まぁそうよね。だって原材料ザラメやもん。

砂糖との違いが色以外わからんけど、ザラメやもん。


それをあのなんかぐるぐるする機械で雲みたいにしただけだもんね。


そりゃ甘いわな。


「俺、たこ焼き買ってくるよ。」


はむはむと綿あめを食べ続ける悠加を見て、時間がかかるなと思った俺はそう提案して歩き出す。


「ちょ…」


そんな声が聞こえたような気もしなくもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る