11 幼なじみと海の家いこっ

「ただいま〜。」


「お〜。おかえり。」


悠加がいなくなってから、一時間ちょっとすると悠加と中山が帰ってきた。

俺は結局作れなかったお城のような何かを壊して、出迎える。


「今帰った!!!めっちゃ、腹減った!!」


お城だった砂を名残惜しそうに見た後に、中山がそう実に元気に言う。

お前なんで、泳いだ後なのにそんなにテンション高いんだ。

まぁ、そういうところ嫌いじゃないぞ。


「僕も、かき氷食べたいな。」


顎に手を当てて呟く悠加。

お前も、泳いだ後なのによくそんな元気あるな。


いや、逆に泳いだ後だから食欲が湧くのか?


「じゃあ行くか。」


俺も、海に来て泳がなかった上でこのまま何もしないのはあまりに寂しいので、なにか海っぽいことをしようとその誘いにのった。


「おぉ、すげぇ種類あんな。」


海の家についてすぐに、中山が感嘆の声を漏らした。

確かに海の家に掲げられた看板には、たくさんのメニュー札がかけられている。


「そうだね、めっちゃ並んでる。」


悠加は、海の家の前の行列を見て呟く。

3つしか無い会計の場所には、ほぼ均等の量のお客さんが列をなしている。


「やべぇ…。」


その行列の長さにやっぱやめようかと思っていると、中山が不意にそう呟いた。


「どうしたんだ中山。」


いつもと明らかに違う様子だったので、気になって声をかける。


「あの女の人、見てみろよ。」


何故か悠加から距離をとった上に、耳打ちで中山が言う。


「あの人か?まぁキレイだな。」


彼が指差した先にいるのは、海の家の店員のお姉さん。


確かにモデルやっててもおかしくないくらいに美しいし、胸もでかい。

中山が好きそうな感じの女の人だ。


「俺、惚れた。」


なんでも無いことのように、中山が呟く。


「「は?」」


近くで聞いていた俺はおろか、少し離れたところで聞き耳を立てていた悠加すら驚愕の声をあげた。


「一目惚れだ。俺あの人の連絡先ゲットする!」


拳を握りしめ、右腕を突き上げてそう決心を表明する中山。


「が、頑張れ。」


よくわからないけどファイトと、悠加が応援する。


「おぉいけいけ。」


中山が誰かに惚れるのはいつものことなので、俺も適当に応援した。

なんとなく、今回の顔はいつもより真面目な気がしたけど、まぁ気のせいだろう。


 ◇ ◇ ◇


「かき氷1個くださーい。」


30分近く並んでようやくたどり着いた、お店で悠加が注文をする。


「はいよ。味はどうする?」


そう接客するのは、髪の毛を金髪に染めたいかしたあんちゃん

俺、こういうタイプの人苦手だわ。


「イチゴで。」


「俺は、じゃあアイスください。レモンで。」


蛍光ピンクのシロップを指差した悠加に続いて、俺も注文をする。


「はい。合計で420円。」


あんちゃん、金髪のくせに仕事はできるようで、レジを威嚇するように叩いてこちらを見てくる。


「これで。」


財布を取り出す悠加を止めて、ちょうど420円を渡す。


「まいど。」


このあんちゃん、やっぱ苦手だわ。

俺は彼の雑な挨拶を聞きながら、そう思った。


 ◇ ◇ ◇


「どうだった?」


アイスを舐めながら、中山に尋ねる。

中山はあのお姉さんに当たるため、わざわざ俺らと別の一番長い列に並んで、たこ焼きをゲットしてきた。


「連絡先はもらえた。」


ぼーっとどこかを見つめながら、中山が言う。

なんでこいつこんなテンション低いんだ?

もらえるなんて奇跡みたいなものなんだから、もっと喜べよ。


「マジ?」


悠加がかき氷を頬張りながら驚きの表情を浮かべる。


「すげぇな。」


あのお姉さん、バイト先で初めてあった客の男子高校生に連絡先渡すのかよ。


にしてもテンション低いなと、うつむいてプルプルと震えている中山を見る。


えっ?プルプル震えてる?


俺がそれに疑問を抱いて、数秒も経たないうちに、中山がバッと体を起こして、


「俺、頑張る!!!!!!」


超大声で叫んだ。


バッと周りのお客さんたちが、中山を見る。

ヤバい、めっちゃ恥ずい。


「応援してるよ。」


「がんば。」


こうして俺たちの海水浴は終わった。


☆今日の一言☆

海の家のお姉さん)あの子、カッコよかったな。

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