10 幼なじみとハプニングっ

「おぉ、随分遅かったね。」


ちょうど準備体操を終えた悠加がよっと手を上げて出迎える。


「まぁな、ちょっと爆弾を処理してた。」


あのままにしていたら間違いなく少なくない数のカップルが別れていただろう。

そう考えると、放って置いたほうが良かったのかも知れない。


「えっ?……そうなんだ。」


一瞬疑問に思うも、あぁいつもの意味わからないやつかとスルーする悠加。

さっすが、俺への対応の仕方がプロ級だ。


「僕、海行こうかな。」


悠加がポツリと呟く。


そういえば、こいつなんで僕って言ってんだろうな。ふと疑問に思った。


あれ?いつからだろう……。

一番古い記憶では、私って言ってた気がするけど。


「なぁ、悠加。」


目の前に本人がいるんだし、聞けばいいかと俺は彼女に声をかける。


「なぁに?」


背伸びをしながら、振り返る悠加。


「お前なんで自分のこと僕って言うんだ?」


俺は普通に尋ねる。


「…………。」


悠加はじーっと俺のことを凝視してくる。

え?何、なんでそんな見るの?

聞いちゃいけないことだった?


「なに、怖いんだけど。なんかごめんって。」


俺はずっと見られるのが怖くなって、取り敢えず謝った。


「…………何でだろうね。君がそれを覚えてないのが、僕はガッカリだよ。」


謝罪を受け入れず、彼女は俺のことを呆れるような悲しむような憐れむような視線で見てくる。


え?何、俺なんかしたの?


「で、海行くの?」


俺が考え込んでいると、悠加は話題を変えた。


彼女はミント色のパーカーを脱げばそのまま入れる状態。

そのうえ、準備体操すら終えてるんだもん、逆にコレで入らないのはありえないだろう。


「うん、ゆうとは?」


泳ぐのは元々得意じゃない。頑張ってクロールが出来る程度。

さらに海はなぁ、なんかベタベタして嫌なんよな。

あと怖い。波が俺を殺してくる。


「俺はいいかな。砂遊びでもしてる。」


こんなときのために俺は事前に、砂場での遊び方の本を読んでおいたのだ!

今の俺なら、芸術的なお城だって作れるね。


「オッケ。じゃあ、行ってくるよ。」


ミント色のパーカーのチャックを下ろしながら悠加が言う。


「あっ、ちょっと待て」


俺は彼女のパーカーを受け取って、彼女の方へと体を寄せる。


「ん?」


悠加の髪の毛にゴミが付いていたから、取ろうと俺は踏み出した。


「ゴミがついてっ……!!!」


なれない砂場でいきなり片足で踏み出したのが悪かった。するっと砂に足元をすくわれて、俺の上体が傾く。


「っ!!!」


思わず目を閉じた数秒後、そんな悠加の息を呑む声が聞こえた。

俺が転けたのは分かったけど、悠加はどうなって…………。


わぁお。

何ということでしょう。


地面に倒れ込んだ俺を支えようとしてくれたであろう悠加も一緒に転けて、俺の両肩の辺りに手をついていた。


悠加が俺の上に覆いかぶさっていて、彼女の端正な顔がまさに目と鼻の先にある。


………いや、こういうイベントよくあるけど、普通男女が逆じゃね?


「…………その、ごめんね。」


悠加が照れ恥ずかしそうに、言う。

彼女の息が俺の頬を撫でた。


………だから、逆じゃね?


「……いや、いいよ。大丈夫。」


俺も恥ずかしくなって、顔をそらす。


「「……………。」」


お互い黙り込みながら、体を起こして立ち上がった。


「……………じゃ、じゃあ行ってくる。」


どこかぎこちなく悠加が海へと向かっていく。


「おっ、おう、気をつけて。」


俺は恥ずかしさをそのままに彼女を送った。


………やっぱ、逆じゃね?


「…………。」

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