9 先生と海で会おっ

「てか、ゆうとお前なんで、制服着てんだ?」


中山が、俺の半袖シャツとスラックスをポンポンと叩いてクエスチョンマークを頭に浮かべながら聞いてくる。


「いや、妹に『海行くんだけど、何着てったらいい』って聞いたら、『知らないけど、制服なら間違いないと思うよ。』と言われたから。」


俺の妹ちゃん、ラノベとかの妹みたいにデレデレでも、皆が言ってるみたいに当たりが強くもなく、良い意味でも悪い意味でも適度な距離感で接してくるんよね。


まぁそういうところが俺は好きなんだけどな!!

やっぱ、妹ってかわいい。


「いや、水着でいいじゃん?僕と一緒に買いに行ったよね?」


悠加も便乗して俺の服をペタペタ触りながら、尋ねてきた。


「お前、家出るときから水着っておかしいだろ。なんで公共交通機関に半裸で乗り込まなきゃいけねぇんだよ。」


俺が美少女なら、痴漢されるだけかもしれないけど残念なことに、現代社会でイケメンでもない男子高校生が半裸で、公共交通機関を利用したら逮捕されるんだぜ。


「もう!!俺待ちきれねぇ!!!泳いでくる!!!!!」


俺と悠加が話し始めたぐらいから確かにウズウズしているなとは思っていたけど、ついに耐えきれなくなったらしい。


中山はサングラスを俺に投げ渡し、海へと走っていった。


「おぉ、いってら。」


人混み越しに、ザバーンと飛沫が上がったのを見ながら言う。


「いってらっしゃ〜い。」


悠加も苦笑いで手を降る。


「悠加はどうする?俺は着替えてくるけど。」


流石に制服だと半袖でも暑いので、海の家で海パンにアーマーチェンジしてこよう。


「うぅん、じゃあ僕は準備体操して待ってるよ。」


中山みたいに飛び込んだら危ないからねと、ケラケラ笑いながら、悠加が言う。


「そうか。じゃあ行ってくる。」


俺は、後ろ手に手を振り、俺は中山のサングラス装着してその場から立ち去った。


「暑いなぁ。」


人混み………多分この半分以上がうちの生徒なのだろうけど。それをかき分けながら呟く。


いくら同じ学校に通ってるとはいえ、名前を覚えていないどころか、顔すら知らない人だって多い。


つまり、俺からすりゃコイツラはみんな他人。

ふっ、遠慮なんてするかよ。


容赦なく水着カップルの間を進みながら、ニヤっと笑う。


「あっ、寺嶋。」


丁度海の家の更衣室に手をかけたところで、休み中に一番と言っていいほど、聞きたくない声が聞こえた。


「げっ」


恐る恐る振り返ると、案の定彼女がいる。


「げっとはなんだ。恩師に向かってげっとはなんだ。」


俺の一年生のときの担任、中条なかじょう 結実ゆみが両手を組んで睨んでくる。


「すみません。つい口が滑りました。」


俺は潔く頭を下げて、心からの謝罪を申し上げた。


「まぁ、休みだし許してやろう。で、お前もナンパしに来たのか?」


元々、中条先生もそこまで怖い人じゃないし、ノリがいい人なのでハハと笑いながら質問をしてくれる。


「俺がするタイプに見えますか?」


ナンパなんてしたくたって、出来ませんよ……。


「まぁ、お前はしたくても出来ないチキンだろうな。」


ニヤニヤと俺を見て言う先生。


ヤバ、俺の心の声聞こえてるのかってレベルで当てられてるんだけど…………怖っ。


「中山と悠加が来たいって言うからしょうがなく。」


なんか休日に先生に合うというのは、微妙に気まずい。

しかも、その先生が白のかなり面積の少なめな水着を着てるんだから、その緊張は何倍にもなる。


俺はできるだけ見ないように、視線をそらして返事をする。


「ハハハ、相変わらず仲いいな。」


手を後ろに回して、豪快に笑う先生。

ヤバイですって、貴方のスイカちゃんが強調されてますって。


俺は紳士である前に、胸は脂肪の塊と思っているから、さほど興奮も視線を奪われもしないけど、他のお客様がもう釘付けですって。


ちょっと先生、自重しましょう?


「そうっすね。」


俺は先生を自分の体で隠して、なるべく見せないようにしながら答えた。


ヤバい、話の内容が入ってこない。

取り敢えず、この2つの核弾頭を隠さなければ。


「じゃあな。たまにはハメを外して楽しめよ。」


そう言って手を振り、立ち去ろうとする先生を俺は呼び止める。


「ういっす。あの、先生良ければこれ。」


見る限り彼女は体を隠せるような上着を持っていない。

このままじゃ、先生自身にも周りの方の精神衛生上にもよろしくないので、俺はバッグから自分用の今野パーカーを取り出して先生に渡した。


「ん、あぁ。お前にしては気が利くじゃないか。」


渡されてすぐにそれがどういう意味を持っているのか悟ってくれたようで、それを肩に羽織ってくれる。


その瞬間、ホッと周りから安堵の声が聞こえたような気がする。


「あざす。」


ヒラヒラと手を振りながら、先生は消えていった。

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