8 幼なじみと海にいこっ
「海だぁ!!!!」
真夏のビーチ。キラキラと砂粒が太陽の光を浴びて輝く、楽園。
ある人ははしゃぎ、ある人は嘆き、またある人はナンパする。
そんな、様々な物語を紡ぐパラダイス。
そんなロマンチックな場所で、全然ロマンのない、パッツパツ海パンをはいて叫ぶ大男が一人。
「そうだな、海だな。」
俺は心底嬉しそうな、中山に適当な返事を返す。
なぜ、ただの月の引力に引っ張られて動く塩水と、砂粒にそんなテンションを上げられるのかわからん。
なんで、サングラスを付けて、コーラを片手にそんなに希望に満ちた表情が出来るのかがわからない。
「海だよ!!!」
大男の隣に、小柄な少女が一人。
「そうだな、海だな。」
なぜ、日焼けを気にして日焼け止めまで塗ってるのに、自ら紫外線を浴びに行くのかがわからない。
なんで、水着の上にパーカーを羽織って、麦わら帽子を押さえながら、そんなに世界って素晴らしいという表情が出来るのかがわからない。
「おい、水着の美女だぞ!!」
砂浜を歩くお姉さんを指差して、一応小声で言う中山。
「そうだな、美女だな。」
たしかに美女だし、胸はでかいが明らかに隣りに彼氏がいるじゃないか。
何だお前、わざわざNTRのか?
そもそも、胸なんぞ脂肪の塊だろ。赤ちゃんのためにある器官だろ。
それになんでよだれを垂らして興奮できるんだ。
ちっちゃいほうがいいだろ。
「ねぇ、かき氷あるよ!スイカも!」
俺のシャツの袖を引っ張って、そうはしゃぐ悠加。
「そうだな、うまそうだな。」
かき氷は原材料水だし、シロップはすべて色と匂いが違うだけで、味は一緒なのに、何故そんなに喜べるのかわからない。
後、スイカは海の家で買うより、近所のスーパーで買った方が安いぞ。
とまぁ、ここまでことごとく真夏の青少年の夢を破壊してきたわけだけど、別に俺が楽しくないわけじゃない。
どちらかといえば、夏は好きな季節だし、海とかではしゃぐのだって嫌いじゃない。
「ただな、ただ。」
だがしかし、今回はそれを踏まえても文句を言いたい。
「ただ、どうしたの?」
悠加がどこか心配そうに俺を見る。
「こんな大勢で来るもんじゃないと思うんだけど。これクラス全員居るよね?」
そう、この場にいるのは俺と中山、悠加だけじゃない。
周りを渡せば見える人の山。
夏だけあって普通に一般人も多いが、それ以上に見知った顔たちがいる。
「おう!!クラスどころか2年はだいたいいるし、1年も半分くらいはいるぞ!」
サムズアップして笑いながら、中山が言う。
いや、なんで嬉しそうなの?
海水浴に学校単位で来るとか頭バグってるとしか思えないよ?
確かにメッセージで、クラスみんな集合とか書いてあったけど、マジで来るの?
普通、半分集まったらいいほうじゃないの?
「あと、先生たちも来てるって誰かが言ってたな。」
ポツリと悠加が、何気ないことのように呟いた。
え?ちょっと待てよ。
先生が来てるって?
「修学旅行かよ!!何が悲しくて教職員共と真夏を謳歌しなきゃいけないんだ!」
マジで学校単位じゃねぇか!
「まぁいいじゃないか!多いほうが楽しいだろ!」
何故か少し照れ気味で俺の方を叩く中山。
いや、それご飯のとき言うやつだから。
飯はみんなで食べたほうがうまいってやつでしょ?
海水浴にそれは適用されんのよ。
「そうそう。楽しまないと!」
悠加もそれにのって、俺の背中を叩いてニッコリ笑う。
「はぁ……まぁ来たものは楽しむか。」
ずっと現実を受け入れずに、ツッコんでても時間が無駄だし俺は折れて空を仰いだ。
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