5 幼なじみとゲームしよっ
ピンポーン
遊ぶと言っても相手がいない。
中山は部活だし、他の奴らは連絡先は知ってるけど『〇〇だよ、よろしく!』『よろしくおねがいします。』の後、一度も話していない。
つまり、俺が来た所はあいつの家だ。
『にゃるニャ〜』と意味不明な迷言が書かれた白Tを着ていっても許されるあいつ。
「はーい。今出まーす。」
と、インターホン越しに聞こえてきた、声の主は……。
「おっす、ゆうと。どったん?」
これまた『山田のうどんパネェ』と、意味不明な事を書いてある黒Tを着ている、こいつの名前は!!
「おっす、悠加。暇だから来た。」
皆さんご存知、悠加でしたー。
いや、引っ張った割には普通だなとか思わないでほしい。
仕方ないだろ、真面目に話せるのは中山とこいつの二人なんだから。
「暇だからって…。まぁいいけどさ。で、何するん。中、外?」
玄関の扉を挟んで、外と中両方をちょんちょんと指差して尋ねられる。
「そんな、デッド・オア・ダイみたいに言うなよ。」
「いや、それどっちも死んでるから。」
俺が流れるようにボケると、悠加も流れるようにツッコム。
流石幼馴染、見事な連携だ。
「キレのあるツッコミアザス。暑いし、中で。」
正直、あと2秒外にいたら俺は溶ける自信がある。それくらいに暑いのだ。
これが地球温暖化なのだろうか。
「はいよ。」
居酒屋の店員さんも驚くような威勢の良さで、悠加は俺を玄関へと導く。
「おじゃましまーす。たっちゃんいる?」
幼稚園らいの幼馴染の家とはいえ一応、靴を揃えながら尋ねる。
たっちゃんというのは、悠加の弟で、今小学生3年生。
悪ガキだと思うだろう?これが違うんだなぁ。
たっちゃんは優しくて俺を慕ってくれるめっちゃ可愛い男の娘。
いや、この漢字表記だと語弊が生まれるな。
確かに可愛いけど、男の娘ではない。たっちゃんの名誉のためにも訂正しておこう。
「あいつは今遊びに行ってる。なんだか、彼女が出来たんだとか。ママならいるよ。」
な、何だと!!!?
あのたっちゃんが、彼女なんて淫らなものを作るなんて!!!
「何!?俺ですら未だ作ったことないのに!?アイツに先越されるとは……。」
俺は悔しいような、弟の成長が嬉しいような複雑な心境だ。
お兄ちゃん、付き合う前に行ってもらいたかったな。
「ハハハ、別にいいじゃん。色付きたいお年頃なの。けど、僕よりも早く付き合うのはちょっと負けた気がする…。」
階段を登りながら、悠加が言う。
分かるぞ、お前にとっては実の弟だもんな。俺よりもショックは大きいはずだ。
俺だって、妹が彼氏連れてきたら泣く自信がある。
取り敢えず、卓球で勝負して俺が勝ったら付き合うのをやめてもらう。
まぁ、俺卓球部所属とは名ばかりに、卓球激弱なんだけどな。
「失礼する。」
二階の悠加の自室に足を踏み入れながら言う。
別に言わなくても怒られないけど、やっぱ礼儀は大事よね。
「はいどうぞ。」
先に入っていた悠加がそう言って、クッションを渡してくれる。
アザスと礼をしながら、俺はベッドの横に腰掛けた。
「いや、変わらねぇな。」
部屋を見渡しながら言う。
昔から変わらず、ミント色が好きなようで、大体のものが白か黒かミントで揃えられている。
「そりゃあ、僕は僕ですもん。」
何故か誇らしげに、悠加が腰に手を当てて言う。
別に、偉くもなんともないんだけど。
「さいですか。で、何やる?」
黒のクッションをムニムニしながら聞いた。
このクッション、なかなかに触り心地がいい。
俺の妹が好きそうな感じ。俺も嫌いじゃないぜ、こういうの。
「いや、訪ねてきたのそっちでしょ?まぁ、私は何でもいいけど。」
夕飯を聞かれたとき、何でもいいって答えたら『何でも良いが一番困るのよねぇ』とお母様が言っていたけど、それの意味がようやく分かった気がする。
なんか決定権を渡されると、ひよってしまう。
「じゃあ、久しぶりにコレやるか?」
俺は適当に目についた名作ゲームを指差す。
「あぁ、ソレか。良いの、ゆうと苦手じゃなかったっけ?」
それは何シリーズも出ている超人気ゲーム。
操作とかはシンプルで、出てくるドラゴンを片っ端から倒していって、ストーリを進めていくタイプのやつだ。
確かに俺は反射神経がお世辞にも良くないから、こういうの嫌いなのだ。
「んまぁ、久しぶりにやりたくなった。」
別に内容を忘れてたわけじゃないんだからね!
「そ。じゃあやろうか。」
悠加はすでに用意していたコントローラーを俺に渡して言った。
「ハードモードでいい?」
本体の電源をつけながらニンマリと俺を見る悠加。
「………お手柔らかに。」
その日、俺が家に帰れたのは夕方だったとか。
☆今回の一言☆
妹)お兄ちゃん、使い終わったお皿は水につけとかないと、お母さんに怒られるよ!
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