3 幼なじみと議論しよっ
「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」
放課後の迎えを告げる、やはりけだるげな掛け声。
「ゆうと、何して遊ぶ!?」
それを覆い隠すほどの、勢い良い男の野太い誘い声。
「秒だな。」
俺は、数学一式をトントンと揃えながら、率直な感想を述べた。
「おうよ!で、何して遊ぶよ?てか、明日から夏休みだぜ!!お前何するよ?」
マシンガントーク全速力のこの大男の名前は、
2年生にして野球部のエース。丸刈り頭がよく似合う、身長180超えのビッグマンだ。
因みにイケメン。坊主のくせして、スポーツマンとして結構女子人気は高い。坊主のくせに。
「夏休みか。とりあえずパパッと宿題終わらせて、あとは適当に。受験勉強もぼちぼち始めなきゃだし、志望校ぐらい決めっかな。」
俺らも2年、あと一年で大学受験。
2年生の夏頃には大体のやつが志望を決めているのだ。
俺は国公立としか決まってないから、担任にもはよ決めろと急かされてる。この夏には、分厚い学校一覧表から一校選ぶしかないのだ。
「そうか!で、いつ遊ぶよ!!俺は部活ない日ならいつでもフリーだぜ!!」
ニカッとサムズアップして、赤文字で『野球』としか書かれていない手帳を見せつける中山。
「俺はオールデイズ、フリーだな。」
机の中から全教科の教科書やらノートやらを取り出しながら言う。
てか、お前帰りの用意しろや。
「オイッスー!なんかいい話してんじゃん。僕も
混ぜてよ。」
右手を上げて、やっほーと茶髪頭が現れる。
俺が鞄を取りに行こうとしていたら、丁度いいところに悠加がやってきた。
「おう!悠加!夏の予定は決まってっか!!?」
中山が変わらぬテンションで悠加に話しかけるのを尻目に、俺は教室後ろのロッカーまで鞄を取りに行く。
「そうだね。今夏はおじいちゃん家に帰んないから、ダラダラかな。でも、海は行きたいかも。」
海か、いいなぁ。けど、暑いだろうなぁ。
「いいよな海!!!俺も、海パンはいて真夏のダイナマイト美女をゲットしたいぜ!」
いや、クラスの女子も聞いてる中で、そんな爽やかに欲望丸出しにすんなよ。
離れていても聞こえてくる二人の会話に突っ込みながら、いそいそと鞄を取りだす。
放課後すぐの教室後ろって、リア充の溜まり場だから嫌なんだよな。
「それ、女の僕の前で言う?」
「いや、悠加は悠加だろ!お前も一緒にビーチでナンパすっか?」
いや、女は女ナンパしねぇだろ。すんなら、逆ナン。
というか、悠加のそういう浮ついた話聞いたことないな。
自分のこと僕って呼ぶような変なところはあるが、あいつだってなかなかの美少女。
男は皆ハイエナのこの、高校生の期間でそういった話を全く聞かないのは珍しい。
まぁ、俺もそんな話ねぇんだけど。
「いや、私は……。」
俺が机に戻って、教科書を鞄にいかに無駄なく入れられるか選手権を一人で開催していたら、何か視線を感じた。
「なぜ、そこで俺を見る。」
気になって顔を上げると、中山も悠加も二人揃って俺をガン見していた。
普通に怖いんだけど。
「いや、別に…。」
何故か目を逸らしながら、呟く悠加。
「お前もナンパしたいかなって。」
ニンヤリと目を見つめながら、呟く中山。
悠加は良いとして、中山。お前はキモいぞ。
いくらイケメンでも、男に見つめられたくはない。
「ダイナマイト美女ねぇ。俺はちっちゃい子のが良いけどな。」
俺は、夏休み前の大荷物を鞄に詰め込むことができた満足感とともに、そう溢した。
「「え?」」
驚いたような顔で俺を見つめる二人。
「えっ!?」
思わず驚き返してしまった。俺、そんな変なこと言ったか?
「「「…………。」」」
夏休み最後の放課後は、
「帰ろうか…。」
「おぉ、そうだな。」
「そっ、そうだね!」
どこか気まずく幕を閉じた。
なんだよチクショー!ロリっ娘良いじゃねぇかよ!!
☆今回の一言☆
悠加)私もちっちゃい…………よね?
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