第10話
なんとかまた、目を覚ますことができた。
だけど身体は動かない。
体を起こそうにも、金縛りにあったかのように自分の意思ではびくともしない。どうにかしようと一頻りもがいても依然と同じ体制のまま。やがて疲れて、ストンと力を抜いた。
あぁ、これが最後なんだと直感的に悟る。
だけど無意識の中でその理由を理解しているようで、不思議と恐怖心はない。
ただ白いだけの天井をじっと見つめた。
今頃ウズメさんは
昨日の別れ際に、今から旅立つよ、と言っていたけれどその真偽を確認する術を私は持ち合わせていないし、注文した雨はまだ届いていない。空には濁りのない水色と少しの白が置かれているだけだ。私はウズメさんの仕事っぷりを見届けることを許されるのか。ただその不安だけが胸中を漂っている。
彼女が私と過ごした日々は、彼女からすれば仕事だったのかもしれない。役割を全うしたことでしかなかったのかもしれない。
だけど枯れた世界で生きていた私にとっては、他に代えようのないきらきらと輝いた宝箱だった。
だからこれは、一方的な気持ち。それでいい。
蓋を開ければ見えないけれど、だけど間違いなく私に成ったものが沢山ある。
死ぬ直前にそれらを背負うなんて骨が折れるけど、それは今まで逃げてきたツケだと思えば背負えるし、なんなら何にもない今この瞬間も楽しかった。辛く背負う時に全部抱えなくて良かったとさえ思える。
だけど私は彼女に、何か返すことができただろうか。
唯一贈ったものといえば、夢と言う名の我が儘。到底、私が受け取ったもの達の割には合わない。
だからきっと私は、あの約束をしたんだ。
窓の外の音に鼓膜が揺さぶられる。
予期するその幸福に気持ちだけが急かされた。
だけど頭は鉛のように重く、すぐに動こうとしない。
もどかしくて視線だけを外に向けた。
さぁっと宙を撫でる雨粒達。
水色のキャンパスに溢れる宝石達は、太陽に照らされて黄金に輝く。
それらが奏でるメロディーは子守り唄のように心地いい。
全てが彼女を体現していた。
目頭がじんわりと重く、痛いほどに熱い。
本当に、彼女は私にどれほどのものを残していくのだろう。
雨を降らせて欲しいなんて建前。本当は何でも良かった。彼女を感じることができれば何だって良かったんだ。
目の前が歪んで何も見えない。……これじゃあだめじゃん……。
それでも、身体が無意識に心地よいメロディーに身を委ねようとする。
意識を保つのも曖昧だ。
何より、重い瞼が幕下りを示していた。
あぁもう、エンドロールの時なのか。
だけど胸の中は、例えようのない大きな充実感で満ち満ちていた。
私を照らした彼女は、また私を導く。
きっとその時を、希うのだ。
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