第8話
ほら、この前言ったじゃん。私、旅人なんだよって。飛び方だってやって見せたでしょ?
そう、飛ぶの。あぁ、空じゃなくて、宇宙をって言った方が正しいかな。どうやって?……うーん、びゅーんって……いや、ふわーっていうか……。自分でもよくわかんないんだけどね?ジェット機にでもなれれば移動が簡単なんだろうなー……。
もう、そんなあからさまに変な顔しないでよ。あくまで私は本当のことしか言わないよ?まぁ、信じるかは君の自由だからこれ以上は言わないけどさ。
ん?うん。え、仕事はしてるよ! ?あ、でも仕事っていうか役割っていうか……。
んーと、この前、雨の精霊って言ったのもそれに入るのかなぁ。ちょっと語弊があるけどね。
私の役割はね、人を楽しませることなの。
それで、雨が降らないーって困ってる人がいたから、雨雲を作ってあげたらそれも仕事のうちになっちゃって。
この星も雨が降らないのが続いてたみたいで、一回降らせたら定期的に来ることになっちゃった。そうそう。それが梅雨って呼ばれてるみたい。どうせならウズメって呼んでよー。
……なんてね。いやいや、いいから! 人間にずっと呼ばれてるのなんかやだ!
……うん。だから今は何でも屋みたいになってる。こっちはそんな暇じゃないのに! でも楽しいからおっけー! ……いやほんとに。楽しいよ、この仕事。天職だと思うもん。
それでその仕事の一環でこの星に来た時にさ、たまたま君のお母さんに会ったの。この病院で。
お腹が大きかったかな。……そう。もうちょっとで出産だって嬉しそうに話してくれたよ。他にも趣味とかこの星のこととか、家族のこととかね。
あ、この場所を教えてくれたのも君のお母さんなんだよ。うん、そう。大きなお腹を抱えて、ここまで連れて来てくれた。ここで色んな話をしてくれたんだ。……あぁ、そう。だから君、生まれる前にここに来てるんだよね。君のお母さんのお腹の中でさ。
あ、それでそれで、大切なのはここから。さっきまでのは茶番だよ。私のことなんかどうでもいいじゃんね?いや、どうでもいいよ。こんな宇宙の端くれみたいなやつのことなんて。大事なのは君のことでしょ?
えっと……。実はね、君がこの世からいなくなったら、この星も滅亡するんだ。信じられないかもしれないけど。
……え、知ってる!?なんで!! ……私?私が教えたって……いやいや、今初めて言ったよ。生きてて今初めてこの話したもん。
えー?そうなの……?んー、まぁまだあるからひとまずその話は置いといて……。あー、でも、そうしたらこのことも知ってるのかなぁ。
っていうのもね、君の一族はこの星を司る神の家系で……あ、この話は知らない?よかった! 知ってたらもう話すことなくなっちゃうもん。うん。そっか、じゃあ続けるね。
君の一族って言っても、特にその中で女性だけ。
だから多分、君のお父さんは知らないんじゃないかなぁ。君のお母さん、話してないって言ってたし。ほら、君のお父さん、なんだかなよなよしてるし……って冗談だよ?いやそこで大きく頷かないで。反論してよ……。
まぁ、そう。それで、君の一族の女性がこの星を創っていったんだって。わかりやすく言うと、神様ってこと。
だから君は、生まれた時からこの星の神様なんだよ。わかりにくいって言ってもさぁ……。これが私の語彙力の限界なんだから許して?ね?
それと、自身の寿命や生命力を消費してコントロールしているから、どうしても病弱になりやすいって。
あー、そうそう。だから君の身体に不調が出ると、気象が不安定になったり、自然災害が起きたりするみたい。最近、地震が多かったり気温がやたら高くなったりするのも、そういうこと。
……うん、君がいなくなったら、同時にこの星も消滅しちゃうんだって。
え! 全然責めてるとかじゃないよ! むしろ私は面白いなーって思ったりしてるもん。あ、フォローになってない?……ごめん。
でも、そんなリスク背負って生きてるなんて、偉いよ。そんな使命を全う出来てるなんて、君は、立派なんだよ?わかってる?
まぁ私にはこんなありふれた言葉しかあげられないんだけどさ……。もう、肩を下ろしたっていいんじゃないかなぁ?
って。なんでそんな、疑ってるような目を向けるんだよー。ほんとに思ってるってば。ほんとに。
だって君はさ。ずっと、強がって背伸びしてるように見えたから。まぁ、人生の先輩からのお節介とでも思っといてよ。
うん。それがいいと思う。
君はもう、一人で岩影から出られると思うんだ。
私はまた、その手伝いをさせてもらっただけ。
あ、ううん。こっちの話。
私が知ってることはこれ以上ないし、言うことはこのくらいかなぁ。
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