第7話
「アマちゃんさ、怪しい大人についていっちゃダメだって学校で習わなかった?」
ウズメさんは私の右手を引きながら、言葉の内容には反して声を弾ませた。
「ウズメさんが怪しい人だったら私、大人不信になります」
「それは光栄ですな」
流石に発作が起きてすぐに外出するのは危険だということで、一日をベッドで過ごした。
その間もウズメさんが喋り通していて、この人が何をしている人なのか謎が深まるばかりだった。こんなところで暇を持て余らせていていいのか。
そして日にちを跨いだ今、夢で通ったあの道を歩いていた。
両側に木が生い茂った小道を進む。
一度通った感覚があるからか、足元は割りと安定していた。
何処に行きたい、と言った訳ではない。
だけど、わかっていたことのかのように病院の脇道へ、ウズメさんは私を導いた。
いや、きっとウズメさんは本当にわかっていたんだ。
根拠はない。ただ確信だけが浮かんでいた。
「アマちゃーん、そろそろ着くんだけど、体調は大丈夫そ?」
「だ、大丈夫です」
足元は大丈夫でも体力はついてこない。相変わらず息は肩でしていた。だけど大丈夫。そう強がる以外の選択肢はなかった。
「はい、とーちゃーく! ここが私達の逢い引き会場となりまーす」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべながら私の方を振り返る。息をしてついていくので精一杯なせいで上手く返せない。
とりあえず、追い付いた私もウズメさんの隣に並んだ。
そこはやっぱり、夢で見た景色と幾分も違わない。
ただ、時間が少し早いせいか、日没の時間が遅いせいか夕日の赤は広がっていなかった。でも違いはそれだけだ。
「ふふーん、ここ、とっておきの場所なんだよ! ……ってあれ、もしかしてあんまり響いてない!?」
私の顔を覗きこんで反応を見たウズメさんは、なにやらぶつぶつ呟いている。
申し訳ないけど、芸達者じゃないので初見の反応はできない。しかも景色で言えば夕焼けの方が綺麗だった。何故この時間帯にしたのか。
「最近の若者のツボはわかんないなー……。あー、でも。アマちゃん、ここに一回来てるんだもんね」
「……え」
ドキッとした。思わず胸に手を当てる。
何で、それをウズメさんが知っているんだ。
もしかしたら、あの夢を見させたのはウズメさんなのか……?
また心拍数が上がってくるのを感じる。だめだ、落ち着かないと。動揺するな、落ち着け、私。
「な、んで……。なんで、そんなこと、ウズメさんが知ってるんですか……」
細々とした声が口から出る。
「ウズメさんは、一体、何者なんですか……?」
夢の中で見た、ウズメさんの表情が頭を過る。
だけど耳に入ったウズメさんの声は、温かくて、優しくて。壊れてしまいそうな、弱々しいものに感じられた。
「多分私、今から怪しさ全開のことを言うと思う。さっきは信用するって言ってくれたけど、信じられないかもしれない。……だから約束する。信じるか信じないかはアマちゃん次第。だけど私は、本当のことしか言わないから。信じてくれたら、嬉しいかな」
「ねぇ、リオ」
ウズメさんが、私の名前を呼んだ。
「聞いてくれる?」
ずるい。いつもはそんな前置きしなくたって勝手に語ってくるのに。もうそんなの、聞くしかない。私が教えて欲しいと言ったことだけど、そうじゃなくたって聞いてた。本当に、この人はずるい。
取り敢えず、頷いた。目を合わせられず一度足元に目線を反らす。
「というか、私のことは既に話してあるんだけどな」
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