ANGEL ATTACK番外編 広島の原爆の日
西山香葉子
広島の原爆の日
七瀬祐介は、藤花亭の前で店が開くのを待っている。
午前7時50分。
ガラッ。
「祐ちゃんおはよ」
「おばちゃんおはよう」
1年でこの日だけは朝から店に祐介を入れる。
8月6日。
広島の、原爆の日。
広島県人が四六時中原爆のことを考えているわけではない。
だがよその都道府県の人よりは考えてしまうだろう。
特に今日は、忘れてはいけない日。
いつもは有線をかけていて、カープ戦の時でもテレビ音声を流さないけど、8月6日朝の式典だけは別。
隆宏の、結局会ったことのない長兄と叔母の命日でもある。当時7歳。明日香たちの祖父母とその子供たちは因島に疎開していたとのことなのだが、なぜかこの時長男だけ(明日香たちには)大叔母に預けられていて、悲しく命を散らせてしまったのだ。
背後から明日香があくびをしながら入ってきた。
藤井夫妻はカウンターの中。
「香苗ねえは?」
「仕事で出られんて。そういえば毬ちゃんは?」
「りんださんの仕事で浅草に泊まってる」
「抜け出せないかね」
「おかあさん無茶なこと言わない」
いつもより2人少ない式典の朝。
『黙祷』
テレビから式典の司会者の声が聞こえる。
サイレン。
4人は静かに目を閉じている。
サイレンがフェイドアウトしていく。
「絶対に忘れたらつまらん日じゃけぇの」
「絶対に忘れたらいけない日だからね」と言う意味の広島弁を、隆宏がつぶやいた。
朝ごはんは毎年もう少し後。
呟いた後で、来年は八木さんも呼ぶかな、と店の大将たる彼は考えていた。
ANGEL ATTACK番外編 広島の原爆の日 西山香葉子 @piaf7688
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます