肆. 夕方の帰り道

「これは私が中学生の頃のお話です。」


「その当時、私は吹奏楽部に所属していました。毎日、夕方まで練習していて、帰る頃には外は綺麗なオレンジ色をしていました。校舎が閉まる時間になると、

顧問の先生からすぐ帰るように促されるのでした。周りをみると他の部員はもう帰ったらしく、私たちが最後のようでした。


私は、結子ゆうこっていう、仲のいい友人がいました。彼女とは同じクラス、同じ吹奏楽部で、同じ楽器を担当していました。学校内ではいつも一緒にいました。


結子といつも通り、片付けをしていると、ふと裕子が。

『あれ?これなに?』

と、彼女の楽器ケースを見てみると、中に一つのマッチ箱ほどの大きさの木札が入っていました。

『なんだこれ?』

私は、そう言いながら彼女の楽器ケースにある木札を手に撮ってみました。木札は全体的に古びていて、端は欠けていました。木札には文字のような。模様のような。今思ってみると”梵字”のような文字が大きく二文字。裏には、幾何学模様が描かれていました。まるで、何かの儀式に使うような木札でした。木札を一通り見た後、私はを彼女に渡しました。私は彼女にを渡し、私たちは早々と、音楽室の鍵を掛け、後にしました。顧問の先生に音楽室の鍵を返し、校門へ向かいました。

私と結子の家は反対方向だったので校門で別れました。私は比較的、家が学校に近ったので徒歩で、結子は遠いらしく、自転車で各々、登下校していました。


私は、その帰り道、について考えていました。私はその頃は今の様に、オカルトとかには興味はなかったのですが、なぜか、について頭の中にへばりついていました。


翌日。起きた時には私は昨日のについてのことは綺麗さっぱり忘れていました。学校に行く準備をして家を出ました。

私は、学校に着いて自分の教室に入ると、いつも通り、友達と挨拶を簡単に交わし、自分の席へ着きました。鞄を自分の机の隣に置いて適当に携帯電話を触って、結子が教室に入ってくるのを待っていました。

しばらくすると、教室に先生が入ってきました。

「おはよう。席につけ、今日の出席をとる」

私は、「今日は結子は休みか」と思いつつ、携帯電話を鞄の中にしまいました。出席番号順に名前が呼ばれて、次に、結子の番になると、先生は、

「杉並... は、今日は休みだ。」

というと、次の生徒の名前を言いました。結子は私よりも体が丈夫で小学校から一度も体調不良で休んだことはないと私に自慢していました。それもあって、私はとても結子のことが心配になりました。その日の授業は適当に受けて、早く結子の家へ行かないと思っていました。放課後の部活は体調不良の嘘をついて休みました。結子の家に向かいました。


結子の家は徒歩で向かうには遠く、一度自転車を取りに自分の家に戻りました。結子の家には何度も行ったことがありました。結子の家に着くまでに、本人に今向かっていることを携帯電話で知らせました。

結子の家の前に着くと、結子のおばさんが応対してくれました。結子の部屋の前までに案内してくれました。部屋に入ると、結子がベットの上に座っていました。私に気がつくと、結子はニコッと笑顔をこちらに向けました。しかし、結子はその笑顔には似合わない姿をしていました。頭には包帯を巻いて、右腕は三角巾で固定されていました。私は、その怪我のことを聞くと、結子は答えてくれました。


昨日、私と別れた結子は、いつも通り自転車で帰宅していました。学校から結子の家まで行くにはとても急な坂を下る必要があるのですが、その坂を下る途中に異変があったようなのです。その異変というのが、急にブレーキが効かなくなったそうなのです。そのまま、速度が上がり続ける自転車に結子は何もできず、そのまま車道に突っ込んだそうです。あの時間帯は、いつもは車の量が多くとても危ないと言われるところでした。しかし、幸いにも、結子が車道に突っ込んだ時には車は全くなく、死亡事故に至らなかったそうです。


結子は、もしかしたら、あの木札のおかげで助かったのかもしれないと例のに感謝していました。それに、結子の怪我は事故の割に軽度らしく、警察の人やお医者さんにも驚かれたようです。

結子とその日のことを話していると、気づいた時には、外が綺麗なオレンジ色になっていました。私はもう帰ることを結子に伝えて、自分の家に帰ることにしました。


帰る途中、私は結子の坂の話を思い出していました。ちょうど話に出ていたその坂を自転車を引いて登っていた時です。ふと不意に後ろに何かがこちらに目線を向けているような違和感を感じました。私は、自転車を止め、後ろを振り返りました。しかし、そこには何もいませんでした。おかしいなぁ、気のせいからなぁと思いながら、坂を登り切り、自転車に乗りました。ペダルに足をかけ、思いっきり漕ぎました。でも、足に伝わる感触はとても軽く、バランスを崩してこけてしまいました。目の前には、カゴに入れた鞄から散らばった小物などが散らばっていました。私は恥ずか半分、痛さ半分で自転車を起こしました。自転車を見てみると、チェーンが切れていました。”マジか”と思いながら、自転車のスタンドをたて、目の前の小物を鞄に戻しました。

私は驚きました。そこには絶対にないものがあったのです。あの例のが落ちていました。木札を拾ってみると、昨日の結子の楽器ケースに入ってあった木片と瓜二つでした。急に怖くなった私は、その木札を捨てて、急いで家まで歩いて帰りました。」


「何?その気持ち悪い木片?って、これ実話?」

(と、浅見がきく)

「少し、着色しました。なんなんでしょうね?もしかしたら、現れた人に不幸をもたらす呪いの木札なのかもしれません。」

(芦田が応える。)

「う〜ん..... 夕方って、この世とあの世の境が曖昧になる時間帯ですから.... もしかしたら、そうゆう悪いものから守ってくてる木札なのかもしれないです。」

(石川が考えながら答えた。)


語り部: 芦田 麻弥

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