参. 電話ボックスの噂
「皆さんの周りには電話ボックスがありますか?」
「その箱に入ればいつでも遠くの友人などと楽しい会話をすることができるとても便利な箱でございます。いろんな人がいつでも使える。ですが、この電話ボックスにはその性質ゆえなのか、怪奇事は数多く語られています。この話はとある男に起こったとても怪奇な物語です。」
(一瞬の間が空く)
「男は会社の帰り道。あたりは点々と街灯が灯っている暗い夜。男は疲れた様子で家路についていた。それもそのはず、この日は夏のとても暑い日だった。男はその暑い中を行ったり来たり、そう、男は営業マンだった。ただでさえ疲れる仕事なのに、男の疲れは会社を出る頃にはピークに達していた。男はその鉛のように重たい体を引き摺って家に帰る。男は"早く家に帰って冷蔵庫に冷やしたビールを飲みたい"、そんなことを考えらがら一歩、一歩、歩いていく。すると、目の前に、周りの街灯とは異なる強い光が見える。電話ボックスから光が漏れている。
この電話ボックスは男が借りている木造アパートの前に設置してある。その電話ボックスが見えるということは家はもうすぐだ。男は最後の力を振り絞り、電話ボックスの横を通り、アパートに入る。自分の部屋がある3階まで階段を使って登った。”あともう少しだ。”。自分を奮い立たせて階段を登って、部屋に向かう。
304。この男が借りている部屋だ。男は鍵を開け、部屋の電気をつける。誰も居ない。部屋はひどく散らかっている。テーブルには、カップ麺の入れ物がタワーを築いている。男は、仕事で疲れていたのか、部屋に入るなり鞄を放り投げ、ベットに倒れこんだ。そして、死んだように寝た。
プルルル プルルル プルルル。
男は目覚めた。熱帯夜なのか、身体中に汗をかいている。
プルルル プルルル プルルル。
この音は、電話呼び鈴だ。男は、眠い目と頭を覚醒させ、時計を見ると、午前2時を少し過ぎたようだ。男は家に置いてある電話に向かった。受話器をとる。
プルルル プルルル プルルル プルルル。
しかし、電話の呼び鈴はまだ、聞こえている。男は呆気に取られた。
男は音の方向を注意深く聞く。
”外だ”
外の電話ボックスから呼び鈴が聞こえている。男は外の電話ボックスの電話に出ようか考える。しかし、
プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル。
外から聞こえてくる電話の呼び鈴は心なしか、時間が過ぎると共により大きくなっていくような気がする。男はなぜか自分が取らないと永遠に鳴り続けような気がした。
男は、部屋を出た。階段を降り、外に出る。その間でも、電話の呼び鈴は部屋を出る前と比べると確かに大きくなっているような気がした。
プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル。
男は、電話の呼び鈴の発生源。電話ボックスの前に立っていた。呼び鈴は、大音量だった。普通に考えたら近所迷惑になるほどだった。男は迷った。これほどの大音量なら自分以外の人が家から出てきもおかしくない。そう思って男は当たりを見渡した。しかし、誰もいなかった。”何かがおかしい ”、男は違和感を体で感じていた。部屋にいた時よりも、体中から汗が滝のように出ている。心臓の鼓動もいつもより早い。これは、違和感ではなく、警告だった。体が危険だと訴えている。だが、覚悟を決めて、男は扉に手をかける。手がかすかに震える。
プルルル プルルル プルルル プルルル......
電話の呼び鈴が止んだ。
男の緊張はプッツリと切れた。”いたずらか”。男は、物好きが誰かを驚かそうとこんな深夜に電話を掛けたに違いない、そう思った。そう思うと、男は、全身の力が抜けたのか、その場で、電話ボックスの前で、へたり込んだ。
これで一件落着。男は安心した。自分の部屋に戻ろうと立ち上がり、電話ボックスを背にした。
プルルルルルルルルルルルル
男は驚いた。文字通り口から心臓が飛び出すかと思った。男は振り返る。
プルルルルルルルルルルルル プルルルルルルルルルルルル
電話ボックスからの呼び鈴。誰の他でもない間違いなく自分を呼んでいる。男はそう思うと、電話ボックスの扉に手をかけた。疑心暗鬼になりながら、扉を開け中に入る。目の前には、いつも見ているただの電話が置いてあった。
プルルルルルルルルルルルル プルルルルルルルルルルルル
男は、受話器に手に取り、耳に当てた。何も聞こえない、沈黙だった。しかし。
ンカンッ ンカンッ ンカンッ ンカンッ
ファ--------------ン
プーーー プーーープーーープーーー
けたたましい鐘のような音があった後、ラッパのような音が聞こえた。そして、切れた。
男は呆然とただ立っていました。そして、いくらか時間が過ぎた後、男は急にアホらしくなり、受話器をもとに戻し、自分の部屋に戻っていった。
翌日。男は、昨夜にあったことなど気にせず、仕事の支度をしていた。顔を洗い、歯を磨き、簡単な朝食をとった。スーツに着替え、昨日放り投げた鞄を持ち、部屋を出た。アパートを出た男は駅に向かった。
男は乗りたい電車に間にあった。駅のホームで電車を待つ。
”電車が参ります。通過いたします”
アナウンスが流れた。
ンカンッ ンカンッ ンカンッ ンカンッ ンカンッ
遠くで、踏切が閉まる音がする。しばらくその音を聞いている。どこかで聞いいた音だ。男は不思議に思う、デジャヴだろうか。そう思っていると、男は背中に鈍痛を感じる。
目の前に映る風景が前転する。感じている時間がゆっくりになる。
ファ--------------ン
男は気づく。この音はデジャヴではないことを。
男は横を見る。運転手と目があった。
駅構内は騒然としたそうです。」
(寺田はコップに注がれたジュースを飲む)
「実際に、電話ボックスというものは、たまにではありますが、この世ではない世界とつながるそうです。もし、あなたが、夜中に近くの電話ボックスの呼び鈴がなっていても、決して遊び半分で取ってはいけません。なぜなら、あの世からあなたを呼ぶために掛かっている電話なのかもしれませんから...」
語り部 寺田 翔太
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