弍. クリスマスの眼

「次は僕の番かな」


「これは、僕が小さい時の話。」

(一瞬、沈黙が訪れる。)

「小さい僕は心が躍っていた。なぜかって、それは冬の大イベントのクリスマスの前日。そう、イブだから。その日は父さんと母さんと朝から買い物に出かけて、いつもとは違うクリスマス一色になった街並みを楽しんでいた。父さんと母さんに普段は行かない、いろんなところに連れて行ってくれた。昼食はレストランに行ってクリスマス仕様の特別なお子様ランチを注文して、ついてきた紙と爪楊枝でできた旗を手に取って喜んだ。一人早く食べ終わったのを父さんが見ると、

『淳彦、今日はこの後遊園地で遊ぶぞ』

って。僕はとても喜んだ。

『良かったわね〜。あっちゃん』

と、満面の笑みを浮かべた僕を見て母さんは言った。


昼食を摂り終わった僕たちは遊園地に行くためにバスに乗った。僕はバスの窓際に座って外の風景を眺めながら、どんな乗り物に乗るのか考えていた。

遠くに遊園地の象徴である観覧車がバスの車窓から見えて僕はさらに嬉しくなった

『父さん、観覧車が見えた』

と、隣に座っていた父さんに嬉しそうに言うと、父さんは笑顔で答えてくれた。

バスが止まり、運転手のアナウンスが遊園地についたことを知らせると、僕は居ても立っても居られなくなった。

バスから降りた僕は急いで入場口まで父さんと母さんの手を引っ張っていった。母さんが全員のチケットをかって、いざ、遊園地の中に入った。


そこは、別世界。僕の胸の高まりは最高潮。

僕は、メリーゴーランドや観覧車に乗った。ソフトクリームをかって貰った。

僕は楽しんだ。とても疲れて眠ってしまったのか、どうやって帰ったのかを覚えていないほどに。


僕が目が覚めて初めに見たのは、自分が書いた絵が飾ってある壁だった。そうか、自分は知らぬ間に家に帰ってきたのかと思った。僕は自分の部屋のベットの上に寝かされていたのに気がついた。部屋に飾ってある時計を見ると18時過ぎだった。もう少しで夕食の時間だと思った僕はリビングを目指して部屋を出て行った。階段を降りてすぐにあるリビングに着くと、父さんに出会った。

『淳彦、起きたか。もうすぐ、夕食だぞ』

と言って、父さんに抱き上げられるとテーブルの上に豪華な夕食があるのが見えた。

『いいだろ〜。淳彦。もうすぐに食べられるぞ』

母さんが起きてきた僕に気がついて、

『お父さん、あっちゃん。もう少しリビングで待ってね』

って、僕たち二人を制すると、父さんはリビングで待ってようと言った。僕たち二人はリビングでテレビを見ていると、しばらくして、

『二人ともご飯よ〜』

と、母さんの声が聞こえた。椅子についた僕、はリビングにあるテーブルの上には中心に七面鳥の丸焼きやその周囲に置かれているオードブルに心踊った。

『『『いただきま〜す』』』

3人一緒に言って、夕食をとったんだ。」

(濱田は、周囲の部員の顔を見て、笑顔を浮かべると続けた。)



「僕は、自分のベットの上で今日は楽しかったとその日1日を思い出しながら目を瞑っていた。そう、今日はクリスマス・イブ。布団を被りながらサンタさんを待った。またに、寝てしまいそうになると頭を横に振って眠気を飛ばす。

それを何回も繰り返していると、

ガチャ... ガチャ... ガチャガチャ。

ドアノブが回る音がした。僕は『サンタだ!!』と思って今までの眠気が吹き飛んだ。

キ〜〜〜〜

ドアが開ける音がした。サンタさんだ。憧れのサンタさんがそこにいる。そう思うと今にでも被っていた布団から顔を出したくなった。でも、まだだ...

ギシッ... ギシッ.... ギシッギシッギシッ

部屋に入ってきたサンタさんがへに入ってきた。そして、音がだんだんと近づいてくる。そう、こちらに向かってきている。まだだ....

ギシッギシッギシッ.... ギシッ。

止まった。

音が止まった。

間違いなく、僕のベットの隣で止まった。

『サンタさんだ』

僕は被っていた布団から勢い良く顔を出した。そこには....


黒い影が浮かんでいた。


その黒い影は周辺の暗闇よりも暗く、くっきりと輪郭が見えた。それは、黒いボールのように丸かった。その丸い何かは寝ている僕を覗き込むようにいる。

僕は恐怖でその場を離れたかった。でも、体は鉛のように重く自由に動かない。まっすぐその黒い何かをみることしかできない。黒い何かを見続けていると、真ん中がさらに黒く変色しているのが見てとれた。黒く変色したそれは丸くなり、その真ん中に線のような亀裂が入ったように見えた。亀裂が上下に動く。すると、白い円とその中に黒い丸の中が現れた。それはまるで”眼”のようだった。

僕は怖かった。心臓はバクバクと警鐘を鳴らし、穴という穴から汗が出てくるのがわかった。それでも僕は何もできず、ただ、目の前にある”眼”に見つめられることしかできなかった。

”オニイチャン..... オニイチャン....”

目の前の”眼”から声のようなものが聞こえたような気がした。

”ナンデ.... オニイチャン ダケ.... ボクモ...."

今度ははっきりと聞こえた。男か女区別はできなかたがとても低い声だ。いや、あれは'声'というよりは'音'に近かった。その声で、「なんで、お兄ちゃんだけ。僕も」。そう聞こえた。しかし、僕は一人っ子だ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもましてや弟も妹いない。頭の中は混乱した。自分でも何を考えているのか分からない。でも、脳はすごい勢いで動いているのはわかった。

”オニイチャン... ウラヤマシイ....ウラヤマシィィィィィィィィィィィィイ”

'音'は低い声から途中で、頭に響くものすごく高い'音'になった。まるでような音。今思えば、その'音'の中には殺気のようなものも感じたのかもしれない。

”オニイチャン.... オニイチャン.... オニイチャン.... オニイチャン...."

目の前の黒いボールは壊れたラジオのような高い音や低い音に変わりながら、煩くうるさく頭に響いていた。

その間、僕は目を閉じることもできずに、その黒いボールの”眼”をみることしかできなかった。耳に聞こえる'音'の中には自分の心臓の音も聞こえていた。だんだん、その'音'と心臓の音が大きるなるにつれ僕は恐怖というもの感覚を人生で始めで味わった。その恐怖に自分が徐々に取り込まれていくのがわかった。


ピピッ... ピピッ... ピピッ...

僕は目覚ましの機械音で起こされた。起きると身体中、汗でびっしょり濡れていた。あれは夢だった。そう自分に言い聞かして一階の台所に行った。


愕然とした。

台所の鏡に映った僕を見た。

そこには、汗でびっしょり濡れた僕の首筋に....


まるで首を締めるように

真っ赤な手のような跡がくっきりとついていた。」


(濱田は話終えると首筋をさすりながら...)

「でも、今思うとあの黒い影はもしかしたら、本当の兄弟だったような気がします。」


語り部: 濱田 淳彦

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