第93話 変わっていく形
「ど、どうしてあの姿で、あそこに来たんだ?」
問いかけても、何も言わずに静かな目でこちらを見つめているから、もしかしてオオカミの姿だと話せないのだろうか。
俺は優しく頭を撫でると、目を細めて頭を寄せてきた。
「ま、いいか」
別に傷つけられたわけではないから、無理に聞く必要もない。
「ホワイトだってことは分かったが、本当にイケメンジャーホワイトでいいのか?」
変身を解いた将軍に対し、ブルーが確認のために聞いた。
「ああ。シロというのは気に入っている。手続きとか面倒じゃないのなら、イケメンジャーホワイトになりたい」
「……そうか。まあ、いいんじゃないか。元々イケメンジャーホワイトだったわけだし、隊服も備品も新たに用意する必要がない。司令官も駄目だとは言わないだろう」
「助かる」
認められた将軍は嬉しそうだ。
「それと、もう一つ頼みたいことがある。俺のことは将軍じゃなくてシロと呼んでくれ。もう将軍じゃないからな。……この地球で新しい自分になりたいんだ」
その気持ちは痛いほど分かる。
かつての俺もそうだった。
怪人だった頃の全てを置いて、新たな人生を歩みたかった。
それを邪魔する権利は誰も持っていない。
「シロか。なんだか変な感じだが、これからよろしくな」
差し伸べた手は、力強く握り返した。
こうして将軍は、シロとして俺達の仲間になったわけである。
怪人が地球征服を諦めて、平和が訪れたかと思えば、そう上手くもいかなかった。
地球はやはり魅力的な星のようで、別の星から狙う存在が現れたのだ。
イケメンジャーとして活動を続けられるのは嬉しいが、そう喜んでいられる話でもない。
生死をかけた戦いだからシロが仲間に加わったのは、戦力が増えて良かったのかもしれない。
「そういえば、どうしてシロが気に入っているんだ? 言ったらなんだが、簡単というか犬っぽいというか……良いのか?」
「良いじゃないか、シロ。まるで対になっているみたいだ。シロとクロ」
「……まさか、そんな理由で気に入っているのか」
「俺にとっては一番大事なことだ」
こちらを見る表情は甘さを含んでいて、心臓が苦しくなった。その理由はまだ知りたくない。
だから見て見ぬふりをし、俺は恥ずかしさからシロの胸を押そうとした。
でも逆にその手を掴まれて、体を引き寄せられた。
口にキスをされそうなのは分かったから、勢いよく顔をそらす。
そのおかげで、なんとか頬にキスをされるだけで済んだ。
「……何するんだ」
「それはこっちのセリフだ。またキスしようとしていただろ。どうしてそんなにキスしてこようとするんだ」
「そんなの気持ちを伝えるために決まっている。好きだから触れたいと思うのは、当たり前の感情じゃないのか」
「そうかもしれないけど、俺に許可を取らないでするのは駄目だ」
不満げな顔に、俺は手のひらを向けてストップをかける。
そう簡単にキスをされてたまるか。
こんな場面だって誰かに見られたら、また結婚秒読みだとか騒ぎ立てられる。それだけは絶対に阻止したい。
そのまま睨んでいると、ふっと笑われた。
「何がおかしいんだよ」
「いや、許可を取ればキスをしていいのかと思ったら、随分と気を許されたと幸せを噛みしめていた」
「なっ!? そういう意味で言ったんじゃない」
話していると、本気で調子が狂う。
とても幸せそうな表情をされて、段々と絆されている自覚はあった。
それぐらい俺に対する態度は甘く、好意を百パーセント向けてきていた。
まだなんとか、全てを許していないのには理由がある。
「こんなところで、二人で見つめ合ってなにしてるのー?」
「うおっ」
少しトゲのある言い方と共に、背中に衝撃が走った。
でも首元を押さえられていたから、シロに倒れ込むのは阻止された。
「じゃまするな、ピンク」
「邪魔するに決まってるじゃーん」
俺の首元にしがみついたまま、ピンクがシロに舌を出す。
あっかんべーと言葉にもしていて、ピンクがやるから似合っている。
シロとピンクの相性は、あまり良くない。
というよりも、シロに対してみんなが警戒している。
「そうだな。油断も隙もありゃしない」
それは元怪人だからとか、元将軍だからとかではない。
「クロさんは絶対に渡しませんから」
みんなが警戒しているのは、シロが俺にぐいぐいと迫っていることだ。
「クロを嫁にもらうのは俺だからな!」
シロが来てから、みんなそういうことばかり言うようになった。
俺は嫁にならないとか、誰かのものになるつもりはないとか言っているはずだが、全く聞く耳を持ってくれない。
「何言っているんだ。クロは俺のものだ。後から現れたお前達に渡すわけないだろ」
「かっちーん。今日こそ殺す」
「助太刀してやるよ」
「ぼ、僕も」
「ま、みんなライバルなんだけどな!」
勝手に話を進めて、戦う準備満々の姿に俺は大きく息を吸い込んだ。
「ものを壊したら怒られるのは俺なんだから、大人しくしていろっ!」
こっちは怒っているのに嬉しそうな顔をするから、俺はむずがゆいような幸せを噛みしめて笑った。
でも壊したら何故か俺が怒られるから、戦うのは本気で止めてほしい。
戦隊ヒーローブラックは周りの溺愛に気づかない 瀬川 @segawa08
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