第92話 収まる形





 ピンクいわく、リリは腐女子という種類に分類されるらしい。


 腐女子というのは、男同士の恋愛を見るのが好きな女子という意味で、俺と将軍の様子を見ていつも悶えていたと告白された。

 悲しまないのであればそれに越したことはないが、将軍との仲を応援されていると考えたら微妙な気持ちになった。


 そのおかげもあって、将軍がここに残る代わりに怪人側の統率をしてもらいたいとの説明をすれば二つ返事で了承してくれた。



「お兄様と将軍様の未来のためなら、私なんでもやります!」



 了承してくれるのはいいが、将軍と俺はそういう関係じゃないと何度も説明するはめになったのは大変だった。

 一応違うのだという理解はしてくれたみたいだけど、何故か逆にやる気を出していた。



「これから、仲良くしていけばいいんですものね! 今後に期待です!」



 その姿を見てどうしてだか分からないが、リリがどんどん遠くに行ってしまうように感じた。物理的ではなく心の距離的に。






 将軍と和解したこと、しばらく地球に留まること、その代役をリリが務めることになったという情報は、すぐに地球と怪人側の両方に知らされた。


 反発は少しだけ起こったらしいが、テレビ中継の様子はハッキングしていた怪人も見ていたようで、逆に祝福の声が多数送られてきた。

 結婚祝いが続々と届いた時には、事実無根だという記者会見を開かざるを得なかったほどだ。キスはしたが、結婚というのは早とちりがすぎる。

 隙を見せるとすぐ将軍は認めようとするから、口を塞ぐのに苦労した。



 リリを将軍の後釜に据えた初めの頃は、当たり前だが上手くいかないことか何度かあった。

 そのたびに悩みながらも改善し、怪人達の考えをいい方向へと導こうとリリは頑張った。


 突然、責任を背負わされた重圧もあったはずだ。逃げたくなった時だって、何度もあっただろう。

 それなのに文句も弱音も吐かずに、立派に上に立つものとして行動した。俺達にアドバイスは聞いても、助けを求めはしなかった。



「私のために、お兄様は命をかけて行動してくれました。だから今度は、私がお兄様の幸せのために動く番です。安心してください、私はこう見えて強いんですからね」



 それは自分の萌えのためじゃないんだよな。

 返答が怖くて聞けなかった。

 でも欲望から来る行動だったとしても、立派に働いてくれているのは事実だから、自慢の妹だ。




 そしてイケメンジャーの現在なのだが、メンバーが一人増えた。


 大々的に告知をする前から、世間には完全にバレていた。

 経緯を考えれば、そうなるのも自然の結果か。


 ただ、みんなの予想を裏切ったことが一つだけあった。

 それは、新メンバーのカラーだ。

 見た目やその背景から、ゴールドやシルバーじゃないかと噂されていたが、実際はホワイトになった。


 そう、イケメンジャーホワイトである。

 いくらいなくなったとしても、その枠はかつてシロが担当していたものだ。

 それにも関わらずホワイトになったということは、察しのいい人はすぐに気がついた。


 新しいメンバーは、将軍と言われていた元怪人だ。そして前に、シロとも呼ばれていた。


 将軍とシロは、同一の存在だったのだ。





 この事実を俺達が知ったのは、メンバーカラーをどうするか話し合いをしていた時だ。



「ホワイト以外にあるのか?」



 なんてことのないように放たれた言葉に、みんな最初は聞き流していた。



「……いやいやいや駄目でしょ。ホワイトはホーちゃんのものだから。別の色にして」



 ピンクが駄目だと説明したのに、将軍は納得のいかない表情を浮かべた。



「いや、だからホワイトでいいだろう」


「人の話を聞いていたか?それはすでに別の奴のものなんだよ。というか、知っているだろ」



 呆れたブルーの言葉に、誰もが頷いていた。

 そんな中で、将軍が爆弾発言をしたのだ。



「知っているもなにも、そのシロは俺なんだから、ホワイトをそのまま引き継いだって構わないだろう? なにかおかしなことを言っているか?」



 最初は失礼かもしれないけど、頭がおかしくなったんじゃないかと思った。

 でもその顔は、嘘をついている表情じゃなかった。



「もしかして気づいていなかったのか?」



 俺達が絶句している姿を見て、ようやく話が噛み合っていないのに気づいた。

 シロに対して何かをしたのだとずっと思っていたけど、その正体が将軍だったわけだ。

 ということはシロにしていた行動は、全て実際には将軍にしていたのか。

 思い出すだけで、穴があったら入りたい。



「わざわざ広める必要も無いから言っていなかったが、俺は地球上でいうオオカミに近い姿に変身することが出来る。シロの時は力を抑えていた姿だ。犬に見えていただろう。本来の姿は、こうだ」



 そう言って、将軍は姿を変えた。

 俺はその姿を見て、開いた口が塞がらなくなった。

 シロよりもずっと大きな姿は、見覚えがあった。

 少し前の出来事であったけど、忘れられるわけがなかった。



「……あの時のオオカミ?」



 強化合宿の時に、何度も会ったオオカミだった。






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