第91話 妹への説明







「……そう、なんですか。私は、そんなに長い間、眠っていたのですね……」


「ああ!だから体が慣れていないんじゃないかと心配しているが、特に問題は無さそうか?」


「そうですね。眠っていたせいもあって、少し体が動きづらいのは感じます。でも支障が出るほどではありませんね」



 手を握ったり開いたりして、リリは感覚を確かめているようだ。

 確かに少し動きがぎこちない。



「それなら良かったー。体調は悪くないかなー」


「はい。きっと私は丁寧に面倒を見てもらえたのでしょうね。気分の悪さは特に感じません」



 ふわりと笑い、そして深々と頭を下げた。



「私のために、ありがとうございます。皆様のおかげで、こうしてここにいられます。感謝してもしきれません」


「そんなに礼を言われることは無い。結局俺達の手で助けたわけじゃなかったからな。お礼なら、隣にいるブラックに言ってやれ」


「ブルー?」


「君を助けるために、殺されるかもしれないと覚悟して、それでもイケメンジャーに頼ってきたんだ。そして君が目を覚ますのを、ずっとずっと首を長くして待っていた。助かったのは、ブラックのおかげだ」


「……そんなに、私のために……」


「気にするな。俺がやりたくてやったことだから。礼は言わなくていい」



 あの時はただがむしゃらに行動していただけで、全く計画性が無かった。

 上手くいったから良かったけど、もしかしたら俺もリリも死んでいたかもしれない。

 だからお礼を言われるべきことは、何もしていなかったのと同じだ。



「いえ。お兄様……私のために、今までありがとうございます」



 でもリリは俺の手を取り、涙を流しながらお礼を言ってくれた。

 必要は無いと強がっていたけど、その言葉は胸に染み込んだ。


 温かい。

 今までやってきたことは、決して無駄じゃないと肯定してもらえた。

 それだけで、苦労してきたことや辛かったことが報われた。だから、もう我慢出来なかった。



「リリ、無事で良かった。目を覚ましてくれて、本当に良かった」


「……お兄様」



 リリの体を抱きしめると、そのまましばらく離れずにいた。



「それで、将軍様はどうしてこちらにいらっしゃるんですか?」



 たぶん今までずっと気になっていたのだろうが、聞くのをためらっていたのだろう。

 でも状況が落ち着いたから、恐る恐るといった感じで尋ねてきた。



「リリが目を覚ますことが出来たのは、将軍のおかげなんだ。まあ、リリが寝てしまうきっかけを作ったのも将軍なんだけどな」


「そんなことがあったのですね。今は和解が出来たようでなによりです。私はこれからどうなるのでしょう? 私とお兄様と将軍様は、星へと帰るのでしょうか?」


「そのことなんだけどな……」



 これは言ってもいいのだろうか。

 これからの話をするということは、リリにとっては辛いことも言わなければいけなくなる。



「リリには星に帰って、将軍の代わりに怪人達を統率してもらいたいんだ」


「私が? 将軍様の代わりに?」


「驚くのも無理はない。ただ、将軍が……」


「俺はここに残って、こいつと共に過ごすことに決めたからだ」


「なっ!」



 人がせっかくリリを傷つけないように、どうやって当たり障りなく事実を伝えるか考えていたのに、全てをぶち壊す言葉を将軍はなんのためらいもなく口にした。

 しかも体を引き寄せられて、ほとんど抱きしめられている状態になった。

 これは見ただけで誤解をされる。

 なんとか胸を押して距離を取ろうとしたが、力が強すぎて無理だった。



「……まさか」


「違うんだ、リリこれは……」


「やっと気持ちが通じたのですね!」


「……リリ?」



 思っていた反応と違う。

 結婚をするはずだった将軍が、俺と一緒にいるのを望んでいると分かったら、いくら気丈なリリでもショックを受けると思った。

 それなのに、今浮かべているのは喜びの表情だ。しかも何故か興奮している。



「リリ、どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」


「だって、めでたいことではありませんか! 将軍様とお兄様が恋人同士になったというのなら、お祝いをするべきですわ!」


「え? お祝い?」


「はい! 結婚式をあげるんでしょう?」


「けっこんしき?」



 もしかしてずっと眠っていたせいで、脳に腫瘍かなにかが出来てしまったのではないか。

 それなら、すぐにでも手術をする必要がある。

 リリの頭を掴み、外傷が無いかと確認していると、くすくすと楽しそうに笑われた。



「どうしたのですか、お兄様。私の頭を見て。くすぐったいですわ。ふふ」


「おかしなことばかり言うからだ。結婚なんて、どうしてそんな話になるんだ」


「えっ? だって将軍様はずっとお兄様のことが好きでしたから、ここに残るということは結婚するということじゃないのですか?」


「んん? ちょっと待ってくれ。リリは知っていたのか。将軍が……俺のことを好きだってことを」



 まさかとは思いつつも、俺は顔をひきつらせながら聞いた。



「? もちろん知っておりますわ!」



 そして返ってきた純度百パーセントの笑顔と、肯定の言葉に意識が遠くなりそうになった。

 気力で踏ん張ったが、涙が出てきそうだ。というか少しだけ出た。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る