第89話 そして語られる真相






「……それじゃあ、話をしようか」



 司令官の淹れてくれたお茶は、とてつもなく美味しかった。

 荒んだ気持ちも落ち着き、ほっと息を吐いた頃に、穏やかに話を切り出した。



「中継は見たから大まかなことは分かったけど、それでも細かいところは知らないからね」



 分かっていたことだが、中継の様子は司令官にもバッチリ見られていたようだ。きっとキスだって見ている。

 ああ、穴があったら入りたい。今から掘って埋まってしまおうか。

 俺は恥ずかしさから自然と下を向き、隣で堂々としている将軍に恨みを募らせた。



「まずは確認しておきたいんだけど、こちらと怪人との間で和解が成立したということでいいんだよね?」



 確かにこれは、一番大事なことだ。

 この状況から考えて、まあそれは大丈夫だとは思うが、きちんと言葉で確認しておきたいといったところだろう。言質というのは大事である。



「ああ、それは間違いない。後でちゃんと書状も届けさせる。必要なら和解したと知らしめるための会合を開いてもいい」


「それは良かった。会合はぜひ開かせて頂きたい。可能ならば中継もさせて欲しい。その件はおいおい調整するとして、これからどうするつもりなのかな?」


「あ?」


「そのまま星に帰ってくれる、というわけでもないんだろう。それだと、世間が納得するかどうかが問題でね」



 俺の時でさえひと悶着があったのだから、当たり前だ。今まで散々暴れ回っていた敵の大将が、地球に残れるはずがない。残る気があるのかどうかも知らないが。



「そうだそうだ。さっさと星に帰れー」



 我慢できなくなったのか、今まで黙っていたピンクが騒ぎだす。



「ここに君の居場所が無いなら、確かに帰った方がいい!」


「そうだな。怪人がいるというだけで、人々が不安になるからな」


「た、確かに。それは同意見です」



 レッドも大人げなく賛成し、それに続くようにブルーもグリーンも賛成した。

 全く、どれだけ将軍のことが嫌いなんだ。

 分からなくも無いが、そこまで敵意をむき出しにする必要も今は無い。



「何言ってるんだ、俺は帰らない。帰る必要も無いだろう」


「いや、無理だって今言ったばかりでしょー。怪人の親玉だしー」


「お前達は馬鹿なのか。怪人でも、地球にいられる例がここにあるじゃないか」


「……俺?」



 そう言って将軍がさしたのは、俺だった。



「こいつも元怪人だけど、今ここにいる」


「クロは仲間だからな!」


「それじゃあ、俺も仲間に入れば問題ないだろ」



「「「「「はあ!?」」」」」



 将軍のまさかの言葉に、俺達の叫び声が重なった。

 司令官だけは予想済みだったようで、ニコニコと微笑んでいる。その様子だけで、この人には叶わないと感じた。



「俺もここで地球を守る手助けをする。そうすれば文句も言われないはずだ。違うか?」



 否定は出来ない。

 というか、実際に俺という前例がある。

 だから誰も反論出来なくて、でも嫌そうな顔で黙り込む。



「それは可能なのか? 怪人側はなんて言う? さすがに上が、ここに常駐するのにいい顔しないんじゃないか?」


「それは問題無い。あちらには適任を送るからな」


「適任?」


「ああ、ここにいる全員がよく知っている」



 その言葉に、俺達は顔を見合わせた。

 俺達がよく知っているというのは、一体誰だ。



「ここにいるんだろ。下か?」



 下?

 そこにいるのは誰だ?

 それを考えて気がついた。



「……もしかして、リリのことを言っているのか?」



 確かにリリには将軍には劣るが、カリスマ性は備えている。

 心優しいから、怪人を正しい道に導くことは出来るだろう。

 そして今、リリは基地の下にいる。

 でも一番の問題があった。



「リリは目を覚ましてないんだ。送るも何も、それ以前の話だろ」



 自信満々に言っている将軍に、俺は懇切丁寧に説明した。



「ん? 分かってないのか?」



 でも逆に将軍の方が、俺が無知のような反応をしてくる。

 そしてとても言いづらそうに、視線をそらしながら早口で話した。



「俺がやったから治すことも出来る。許可をもらえれば今すぐにでもな。だから星に返すことも可能だ」



 なにかしらリリの病気に関連性があるとは思ったが、まさか本当にやっていたとは。

 俺は衝動的に、将軍の肩を拳で殴っていた。

 スピードから考えると避けられたはずなのに、完璧に入った。

 それが罪悪感からくるものだと分かったから、余計に怒りが湧いた。


 でも、攻撃よりも先にすることがある。



「……早くリリを治してくれ」



 一刻も早く、あそこからリリを出してあげなくては。

 絞り出すような声で頼めば、手を握られた。



「案内してくれ、今からやる」



 すぐに行動を起こしてくれるという驚きから、俺は恋人繋ぎされているのにはツッコミを入れなかった。

 リリを治してくれるというならば、いくらでも案内しよう。


 俺は将軍を引きずってリリの所へと向かおうとしたが、はっと気がついてみんなの方を見る。



「行ってきなさい」



 司令官が優しくオッケーを出してくれた。

 他のみんなはというと、渋い表情を浮かべていたが、俺と目が合うと仕方がないといった様子で手を振った。

 行ってこいと言っているのだと判断し、俺は将軍の手を引いてリリのいる地下へと進んだ。







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