第88話 それからの後始末




 テレビ中継は、しっかりとキスシーンを収めていた。

 その日のトレンドランキング一位になり、将軍×ブラックという言葉で、SNSが埋め尽くされる事態になった。

 取材や電話が殺到し、基地の職員は後始末に追われた。



 イケメンジャーは、中継の様子を全員で見ていた。

 ということはもちろん、俺と将軍のキス、その後の宣戦布告も見ていたわけだ。

 そして俺達が話していた場所は、基地からとても近い距離だった。

 つまり何が起こったのかというと、イケメンジャーが全員集合してきたのだ。



「クロに何をするんだ!!」



 レッドを先頭に、みんながビルの屋上に飛んできた。どうやったのかは知らないが、本当に空から飛んできたのだ。

 俺は驚いているだけだったが、将軍の判断は早かった。


 俺のことを抱きしめたまま、ひらりと身をひるがえし、そしてニヤリと笑った。



「何をしている? そんなの見れば分かるだろう。一緒に話をしているんだ。俺達は話をする時間が足りなかったみたいだからな」


「話をするのに、そんなに近づく必要は無いと思うがな」



 ブルーの冷静なツッコミは的を射ていた。

 俺は必死に腕の中から抜け出そうとするが、力が強すぎて無理だった。



「存在を感じていないと不安なんだ。こう見えて心配性なんだよ」


「そんな風には見えないけどねー。むしろ厚顔無恥とか、そういう言葉が似合うんじゃないのー」


「お前もな」


「はー!?」



 ピンクの煽りに対しても、逆に煽り返す。

 ブルー以上の煽り方に、ピンクの顔が歪んだ。



「あ、あのっ。クロさんを離してください!」


「お前は、随分と言うようになったじゃないか。誰の影響なんだろうな。まあ、絆されたとしても渡さないが」



 グリーンが震えてつつもはっきりと言うと、少し感心した様子を見せたが、煽ることは止めなかった。


 ああ、テレビで実況中継されているのに、こんなくだらないやりとりをしている場合じゃない。

 これが世間に流れていると思ったら、この場から何もかもを投げ捨てて逃げたい気分だった。



「お前達は、そこで指をくわえて見ているだけしか出来ないだろ。どんなに好意を向けたところで、俺のものになる未来に変わりはない」



 顔を近づけてくる将軍に、俺の本能がようやく警報を鳴らした。

 遅すぎると文句を言いたいが、今は先にやらねばいけないことがある。

 また見せつけるためにキスをしてこようとした将軍に対して、俺は頭を後ろにそらした。

 そして勢いをつけて頭突きをする。


 まさか頭突きが来るとは思っていなかったようで、うめき声とともに将軍の腕が緩んだ。



「っ、何をする」


「それは、こっちのセリフだっ。人前でキスするなんて、どういうつもりなんだっ」



 今度は掴まれないようにと、警戒しながら叫ぶ。

 額を押さえて顔を歪めていた将軍は、俺の言葉に口角を上げる。



「それは、人前じゃなければいつでもキスしていいってことか?」


「ちがっ。キャラ変わってないか」


「遠慮する必要は無いと分かったからな。ガンガン攻めていかないと、俺の元に来てくれないだろう」



 恥ずかしくてたまらない。

 ヘリだって未だに飛んでいるから、全てが筒抜けの状態だ。

 俺は今世間がどんな状況になっているのか考えて、そして怒りが湧いた。



「一旦、基地に戻るぞ!」



 ここで言い争っていれば、どんどん恥ずかしい映像が出回ってしまう。

 とりあえず基地に戻れば、この変な空気も少し落ち着くだろう。

 何か言いたげなみんなに、俺は再び一喝する。



「良いから行くぞ!!」



 怒りが伝わったのか、みんな大人しく基地まで着いてきた。







「おやおやおや。お茶でいいかな?」



 イケメンジャー+将軍というおかしなメンバーで戻ってきたのにも関わらず、司令官は全く動じず、むしろお茶を勧めてきた。



「ああ、頼もうか」



 のんびりとお茶を飲んでいる場合じゃないと思ったが、まっさきに椅子に座った将軍が頷いた。

 なんでそんなに偉そうなんだ。



「それじゃあ、ちょうど今日は良い茶葉が届いたから、それを淹れるね。ちょっと待ってて。みんなも座って」



 そしてなんで司令官も、普通にお茶を淹れに行こうとしているんだ。

 ツッコミどころ満載だったが、聞けない雰囲気を感じ渋々座る。

 座る時も席順で揉めかけ、結局俺は将軍とレッドの間に決まった。

 他のみんなの視線が痛い。でも気付かないふりをして、俺は遠くを眺めた。



「おい」



 お茶が来るまでそのままでいようとしていたのに、我慢することが出来なかった。



「触るな。くすぐったい」



 髪をくすぐられるように触れられ、俺は将軍の手をはらいのける。

 手を叩かれたというのにも関わらず、涼しい顔で今度は頬に触れてきた。



「いいだろう。傷つけるつもりは無い。触れたいものに触れたいだけだ」


「……状況を見ろ」


「見た結果、触っている」



 きっとこれも、将軍の見せつけというものなのだろう。

 こちらに突き刺さる視線は多く、俺は現実逃避をした。



「……ちょっとー」



 文句を言おうとピンクが話しかけようとした時、テーブルの上にカップが置かれた。



「まあまあ落ち着いて。ゆっくりお茶を飲みながら話をしよう。……ね」



 司令官の雰囲気が恐ろしく、さすがの将軍でさえも手を離した。






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