第87話 将軍の暴走と訂正





「そうか。俺とは一緒に来られないというのか。それなら仕方がない。壊すだけだ」



 そうなるとは思っていたけど、俺の言葉を聞いて将軍は暴走を始める。

 手のひらにパワーを集め、最大出力の攻撃を放とうとしている。

 多分この攻撃一回で、確実に地球の半分は吹っ飛ぶ。


 この近くにいる誰もが助からないが、なりふり構っていられないのだろう。

 本当、どれだけ俺のことが好きなのか。

 自意識過剰気味に呆れながら、俺はその腕を掴んだ。



「なんだ? 命乞いでもする気か。そんなのは無駄だ。お前が俺のものにならないというのなら、もう全てがどうでもいい」


「違う。命乞いはしない。というか話はまだ終わっていないから、最後まで聞け」



 さすがに話も終わっていないのに、地球を破壊されるわけにはいかない。

 落ち着けという気持ちも込めて、腕を軽く叩くと、一応攻撃するのは止めてくれた。



「……別にやめたわけじゃない。話によっては、いつでも攻撃するからな」


「分かっている」



 視線で話を促されたので、深呼吸をして緊張をほぐす。



「俺はイケメンジャーだ。それを変える気は無い」



 殺気のようなものがぶわりと大きくなったが、構わず続ける。いちいち気にしていたら、話が一生終わらない。



「でも、それだけじゃ駄目だというのも気づいた。イケメンジャーだけだと、俺の世界はぐっと狭くなる。リリのことも、シロのことも、カイのこともまとめて考えてみたんだ。もちろん将軍のことも」



 殺気が小さくなったのは、俺の話の続きが気になったからだろう。



「狭い世界にはいられないけど、ずっとは無理だけど、一緒にいることは出来る。そう思わないか?」



「それはつまり?」


「俺達には圧倒的に言葉が足りない。ちゃんと話をするべきだ。だからイケメンジャーとか地球とか関係なく、まずは……」



 そこで俺は、もう片方の手を差し出して頭を下げた。



「友達から始めてみないか?」



 考えて出した答えは、地球征服は止めてもらい、でも将軍に囲われることなく、イケメンジャーとして活動しながらたまに一緒に話そう、という俺にとってはいいとこ取りのものだった。

 でもみんなが納得出来そうな、そんなちょうどいい方法が他に思い浮かばなかった。


 もしもこれを拒否されれば、地球のためにも俺は将軍のものになると言わざるを得ないだろう。

 そうなった時、地球と怪人の間で全面戦争が起きるのはブルーいわく確実らしい。


 俺のせいで、たくさんの人や怪人が傷つくのは耐えられない。

 だから将軍には納得してもらう。


 何も言われないが、後頭部にチクチクとした視線を感じる。

 話を聞いて理解し、そして結論を出そうとしているのだ。


 了承の答えが欲しい。

 飛んでいるはずのヘリの音さえ耳に入らないほどに、将軍の声に集中した。



「……お前は」



 集中しているおかげで、吐息に近い声もちゃんと拾った。



「とてもずるい奴だな」



 言い方だけで、勝利を確信する。

 それぐらい柔らかい声だった。



「悪い。地球に来てから、遠慮のし過ぎも良くないと学んだんだ」


「そうか」



 一気にその場の空気が和らぎ、俺は大きく息を吐いた。

 良かった。

 成功率の低い状況だったが、なんとか上手くいった。


 胸を撫で下ろして安堵していると、差し伸べた手が握られる。



「先程の答え、他の者には反対されたんじゃないか」


「えーっと、まあ……一部には」



 特に反対したのは、レッドとピンクだった。

 ブルーやグリーンも、いい顔はしていなかったが、他に案が無かったから納得してはくれた。



「そうだろうな。お前は随分と、ここでも人をたぶらかしたようだ」



 くつくつと笑う姿は、何かが吹っ切れたのか楽しそうだった。

 無表情が崩れている珍しい様子に、反論するのも忘れて見とれた。



「和平するのは良いが、そのまま全てを受け入れるのはしゃくに触るな」


「……は?」



 勢いよく腕が引かれ、俺は前へと倒れる。

 そして将軍と唇が触れた。



「っ!」


「ごちそうさま、と言えばいいか?」



 唇はすぐに離れたが、キスをした衝撃は凄まじかった。

 下唇を舐めるしぐさに目が離せなくて、パクパクと口を動かすことしか出来ない。



「そんなに可愛い顔をするな。もう一度したくなる」


「なっ!」



 そこでヘリの音が耳に入ってきた。

 今のキスも、もしかして中継されたのだろうか。

 その考えに至った途端、顔から火が出るんじゃないかというぐらいの恥ずかしさが襲いかかってくる。


 唇を勢いよく擦っても、無かったことには出来ない。

 睨みつけても涼しい顔だ。



「あれは生中継をしているのか」



 むしろ、のんびりとヘリを指して尋ねてくる。



「……そうだ」


「ここからの声も届くだろうか」


「さあな」



 後でどう言い訳しようと考えていた俺は、将軍のたくらみに全く気が付かなかった。

 だから抱きしめられた時も、ただ驚いていた。



「少しぐらいはそちらに貸すが、こいつは俺のものだ。絶対に渡さない。せいぜい指をくわえて見ていることだな」



 そのせいで、誰に向けたのかは分からない宣戦布告とも取れる言葉を、全く止められなかった。





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