第54話 俺を好きになった瞬間





 それを見つけたのは、本当に偶然だった。

 将軍という地位について、俺の周りにはイエスマンか虎視眈々と将軍の地位を狙うような奴しかいなくなった。

 前者は無視しておけばいいし、後者には圧倒的な力の差というものを見せつければ大人しくなる。

 それを続けているうちに、誰のことも信じられなくなって、感情が動くということもほとんど無かった。


 別に仲良しごっこをするつもりはなかったから、寂しさや焦りを感じることなく、俺は将軍として圧倒的な強さで惑星を支配した。


 一生孤独に、俺は生きていくのだろう。

 そんな、諦めにも似た感情を持った時だった。

 あいつの姿を見つけたのは。



 第一印象は、生意気そうな面をしている男。ただそれだけ。

 顔自体は整っている方だったが、黙っていると睨みつけているようで、それが原因でよく絡まれたりしていた。

 性格は顔に似合わず、平和主義。唯一の肉親である妹を慈しみながら育てていて、自身のことは二の次に回し、それを苦だと全く思っていない間抜けだった。

 妹は顔立ちがさらに整っていると噂になっていたが、俺からすれば興味を引かれるほどのレベルではなかった。

 むしろ顔は、そいつの方が好ましいと思ったぐらいだ。



 実の肉親でさえも信じられない俺にとっては、どうしてそこまで妹を優先させることが出来るのかが疑問だった。

 だから興味が湧き、その興味を失うまでは観察してみることにした。


 観察すればするほど、相手のことが分からなくなる。

 妹と比べられるのが嫌なのか、それとも目立ちたくないのか、いつも一歩引いたところで全体の様子を窺っている。

 そのおかげもあり、何か問題が起こる前に対処することが多かった。

 しかもそれを自慢することなく、自分の手柄だと思われなくても平気そうな顔。


 偽善者か馬鹿なのか、観察する限りでは判別出来ず、俺は化けの皮を剥がしてやろうと考えた。


 直接近づくと警戒されたり演技をされる可能性があったから、まずは妹に近づくことにした。

 ちょうどよく美貌が他よりは優れていたおかげで、俺が傍に置いても文句を言われることは無かった。

 むしろお似合いだとか、馬鹿なことを言われた。


 向こうも何故か俺に好意を抱いたらしく、俺にくだらない話をしてきたり、体を寄せてきたりした。

 あまり酷い態度をとると計画が失敗するから、出来る限りは構ってやった。

 そうすればますます調子に乗って、俺に意見をするようにまでなってしまったのだ。

 さすがにそれは許していないし、周りも周りで結婚させようとするのにうんざりした。


 こうなったのも全てあいつのせいだ。

 せっかく妹を口実に傍にまで引き上げたのに、邪魔があるから観察もほとんど出来ていない。

 俺が勝手に始めたことではあったが、上手くいかないのを相手が原因だと決めつけた。




 積もりに積もったストレスを発散するために、俺はあいつの元に単身で突撃した。



「しょ、将軍」



 突然俺が現れたことに驚いた表情は、ほとんど表情を変えないから、見ていて胸がスッとした。



「妹の件で話がある」


「リリの……一体どんな話でしょうか?」



 オドオドとした態度をとっていたくせに、妹の名前を出せば真剣な顔になる。

 それが気に入らず、俺は少しの嫌がらせの意味も込めて、あいつに術をかけた。


 そんなに難しいものでは無い。

 ただ本当のことしか話さなくなるものと、これから起こることは忘れるだけの、ちょっとしたものだ。


 よほど油断していたようで簡単に術にかかり、目がにごっていく。



「俺の声が聞こえているか」


「……はい」


「今からする質問に正直に答えろ」


「……はい」



 簡単にかかりすぎたと呆れながらも、何故か気持ちが高揚する。



「お前は妹のことをどう思っている」


「リリ……? 大事な妹です。幸せになってもらいたい。俺の命を引き換えにしてでも。リリにはその権利がある」


「命を引き換えに? どうしてそこまでする必要があるんだ」


「妹ですから。兄の俺が守ってやるのが当たり前だ」



 いくら血が繋がっているとはいえ、どうしてそこまで大事にすることが出来る?

 答えを聞いても納得出来なかったが、本心なのだから文句も言えない。




「それなら俺のことはどう思っている」


「……俺?」


「将軍のことだ」


「……将軍……」



 その質問をしたのは、ただの気まぐれだった。

 でも答えを待つ俺の顔は、とても軽い表情では無かっただろう。



「将軍は……とても怖い。圧倒的な力があって、そして冷酷だ。上に立つ存在としては最高なんだろうが……」


「……ふん」



 少しの期待が無かったと言えば嘘になる。

 他とは違った答えを出すと思ったが、どうやら見当違いだったらしい。

 興味どころか憎しみまで抱き始め、これ以上は時間の無駄だと術を解こうとした。

 しかしその前に、向こうがさらに言葉を続ける。



「……でもリリと結婚して幸せになって欲しい。俺に守られるほど弱くないだろうが、もしも困ったことがあったら力になりたいし、何かあった時は俺が盾になるつもりだ」


「な、ぜ?」


「何故? そんなの簡単だ。リリと一緒になるのなら、将軍も俺の家族になるからだ。家族は守るものだって言っただろ……」



 その答えに、俺はしばらくの間動くことが出来ず、固まっていた。





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