第51話 ここからの脱出






 怪人の拠点にいることと、今のところ向こうには敵意が無いことだけは分かった。

 でもそれがいい知らせかと聞かれれば、微妙だと答えるしかない。


 たぶん俺は人質なのだ。

 リリのいる場所を聞くために、まだ生かしているだけに過ぎない。

 大人しくしている間は何もしてこないだろうけど、逃げようとしているのがバレたら痛めつけられる。それに使えないと判断されれば殺される。早く死ぬか遅く死ぬかの違いだけだ。

 だから誰にも知られることなく、逃げる必要があった。


 それにしても、この衣装は目立つ。

 何色使っているんだと聞きたくなるぐらいカラフルだ。

 こんなんで外に出れば、一発で見つかる。

 リリが着るなら似合うけど、俺が着ているせいで視界の暴力にもなっている。



「……減らすか」



 カラフルなのが駄目だったら、それを減らすしかない。

 とにかく目立つ色の布を脱いでいくと、面白いことに最後には黒色だけが残った。



「ははっ」



 出来すぎた偶然だが、俺の色は黒だと言われているみたいで嬉しかった。

 イケメンジャーブラックとしての存在を認められている。そう思った。



「これなら……まあ、多少は目立たないか」



 ひらひらしていることに変わりないので、隠れなきゃいけないが、一発でバレる可能性は減った。

 後は、引っかかりづらくもなっただろう。



「よし、とにかく出よう」



 ここにいたところで何も始まらない。とにかく外に出なくては。

 俺は扉に張り付くと、外の気配を探った。なんともまあ都合のいいことに、扉の近くには見張りとかはいないようだ。

 見張りがいたら、まずはそれを何とかしなきゃいけなかった。その苦労や危険性を考えれば助かる。

 深呼吸を繰り返し、俺はそっと扉を開けた。



「……よし」



 見える範囲の外には誰もいない。

 まずは第一関門突破だと、身をかがめながら外に出る。

 廊下に出ても、怪人は一人も見当たらない。

 俺がまだ寝ていると思っているのか、誰も警戒していないようだ。


 セキュリティがガバガバだなと、俺にとってはやりやすいが心配になる。

 今ここにみんながいてくれれば、将軍を倒すことも可能なんじゃないか。

 そんな考えも浮かぶが、欲張りは身を滅ぼす。

 とりあえずは、ここから出ることを最大の目標としよう。



 そのまま気配を探り探りに進み、誰とも会うことなく、大きな扉の前に辿り着いた。

 特に装飾されていることなくシンプルな造りだが、とてつもない威圧感があった。

 この先にあるのは出口じゃない。

 それでも立ち去るのではなく、扉に耳を当てることを選んだのは、少しでも情報を得てから帰ろうと考えたからだ。



『……っ……!』



 扉の向こうには複数の気配があり、その中でかなり怒っているのもいた。

 いや、誰かに対して意見しているみたいな雰囲気だ。

 詳しい内容が気になり、俺は扉に耳をつけた。



『どうしてさっさと拷問して情報を聞き出さないんですか! リリ様の情報を聞き出して殺すべきです!』



 どうやら俺の話をしているらしい。

 やはり殺したい怪人はいて、それを今のところは誰かがストップをかけている。

 そのおかげで命拾いしたのだが、どうしてあんな待遇になったのかが疑問だった。

 怪人が不満を抱えながらも言うことを聞いているということは、その命令をした主はある程度の地位にいる。


 昔を思い出して誰だか推理しようとするが、そんな奇特な怪人はいなかった。

 声を聞けば分かるだろうか。



『我々に拷問の許可を!』


『……黙れ』



 それは決して大きな声を出したわけではないのに、とてもよく響いた。

 俺に対して言われていなかったにも関わらず、思わず背筋が伸びた。

 間近で聞いた者にとっては、きっと生きた心地がしなかっただろう。

 先程まで騒がしかったのに、急に静かになった。



『あれの処遇は俺が決める。外野がごちゃごちゃと騒ぐな。……消されたいのか?』



 本気の怒りは、声だけでも伝わってくる。

 扉越しでここにいることはバレていないはずなのに、見透かされているようで居心地とても悪い。



『も、申し訳ございません! 全て将軍様の御心のままに!』



 余計なことを言えば、本当に消される。

 そう感じとったようで、これ以上楯突くことは無さそうだ。

 俺としても他人事じゃなかったから、ほっと胸をなでおろした。



 部屋の中から、俺のいる扉とは違う出口で怪人が出ていく。

 こちらに来なくて良かった。

 気配をまた探って、誰もいなくなってからここを離れようとした。



『……おい、そこにいるんだろう』


「っ!」


『入ってこい』



 バレてないと思っていたのに、俺の存在に気づかれてしまったらしい。

 中から呼ぶ声が聞こえてきて、このまま逃げた方が良いか一瞬考える。



『入ってこないのなら、扉を吹き飛ばす』



 でもそんなことを言われてしまえば、中に入る他に無い。

 やると言えば、絶対にやる。

 無駄な戦闘は避けたかったが、仕方ない。


 俺に今すぐ害をなす気は無いようだが、一体どんな話をされるのかと、死刑執行を待つ囚人のような気持ちで扉を開けた。


 もし戦闘になったら、刺し違えてでも将軍を倒す。

 そう覚悟を決めながら。







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