第50話 理解の出来ない扱い
目を覚ますと、大きなベッドの上だった。
見覚えのない部屋だ。
ゴロゴロと逃げ回ったとしても、落ちることはないぐらい広いベッド。
天蓋付きで、まるで中と外を遮断しているみたいだった。
「……ここは……どこだ?」
気絶する前のことを思い出す。
たしか怪人を殺した倒そうとした時に、将軍が現れて俺はお姫様抱っこをされて……。
「……将軍に捕まったのか」
それなら、すでに殺されているはずだった。
俺は裏切り者で、将軍にとってはなんの価値もない。
ここにいること事態が不思議だった。
「人質か?」
この前怪人が言っていたように、リリの居場所を知りたいのなら、怪しいと思う拠点を片っ端から襲っていけばいい。
それとも俺に聞き出さなきゃいけないぐらいに、切羽詰まっているのか。
「何を考えているのか。本当に分からないな」
ベッドから起き上がると、違和感に気がつく。
「……これは?」
俺が身につけているのは、リリが着ていたものだった。
ひらひらとした薄い布が何重にも重なっていて、移動すればどこかに引っかかってしまいそうだ。
リリはよく着ていられるなと、いつも感心していたのを覚えている。
そんなものを着せられていた。
意味が分からない。
「なんの嫌がらせだ。全く」
これはリリが着ていたからこそ似合っていたのであって、俺が着たらお笑い草である。
そんなものをわざわざ着させて、楽しむなんて悪趣味すぎる。
「一体、誰の趣味なんだ」
頭をかきむしってうめくと、誰かが扉に近づいてくる音がした。
みんなが助けに来てくれたなんて都合のいい話があるわけないから、怪人の誰かなんだろう。
敵意があるのか予想出来ない。
だから俺は寝たフリをした。
目的は俺だったらしく、すぐに部屋の扉が開く音が聞こえてくる。
静かに、でも確実にこちらに近づいてくる足音。
目を閉じているから、音と気配で感じ取るしかない。
緊張もあって固まっていると、足音の主はベッドまで来た。
誰だ?
起きているのがバレるとまずい気がして、寝たフリを続ける。
天蓋の布をかき分け、そして寝ている俺を観察するような視線を感じた。
居心地が悪すぎて、顔がひきつりそうだ。
でもここで表情を変えれば、起きていることを気づかれてしまう。
息を止めるぐらいの気持ちで目を閉じていれば、頭にそっと何かが触れる。
「っ」
思わず吐息がこぼれてしまった。
触れている手が止まり、俺の様子を確認している。
息を止めて、俺は寝たフリを続けた。
そうすれば、視線の強さが少し和らいだ。
頭に触れているのは、どうやら誰かの手らしい。
まるで感触を楽しむように撫で続けてくる。
愛玩動物にでもなった気分だった。
その手が気持ちよくて擦り寄れば、今度は相手の息が零れた。
「ふっ」
笑うような声。
その手が俺の頬に移動する。
するすると優しい手つきから、愛を伝えられているような錯覚に陥った。
ああ、手が温かい。
その温度が心地よく、いつの間にか涙が頬を伝った。
「っ……お前は、そんなふうに表情を変える奴だったのか」
驚いたような声は、俺の挙動に対してのものらしい。
怪人のところにいた時は、感情が動かされることは無かった。
嬉しさはもちろん感じるわけがなかったし、悲しいことがあって胸を痛めてばかりでいたら心が壊れると、自分の気持ちを押し込めていた。
表情を出せば馬鹿にされるか、スキを突かれると思った。
だから無表情に無感情になることが必要だったのだ。
「……どうすれば俺のものになるんだ」
頬を撫でていた手が止まり、そして柔らかいものが俺の口に触れた。
それはすぐに離れていったかと思えば、大きな舌打ちが聞こえ、来た時とは違う荒々しい感じで部屋から出ていく。
「……何だったんだ」
起き上がった俺は、柔らかいものが触れた口元に指を滑らせる。
ぞわりと背筋を何かが駆け巡った。
声を聞けば、相手が誰だったかなんて分かる。
「……どうして将軍が……」
あんな穏やかな声を聞いたことは無いし、あんな優しく触れられたことも無い。
幻だったんじゃないか。
夢の続きだと言われた方が、まだ信じられる。
「殺されることは無いと、今のところは考えてもいいか」
少しでも状況を理解して、ここから抜け出す方法を探すしかない。
みんな心配しているだろうから、出来るだけ早く逃げなくては。
もしかしたらピンクやグリーンは泣いているかもしれない。帰りが遅いとブルーやレッドが怖い。
いつもとは違う様子の将軍のことは、とりあえず置いておこう。
とにかく逃げてから、ゆっくり考えればいい。
俺は今着ている服を替えたいと、外の様子に気を配りながら部屋の中を探った。でも替えになりそうな服は見つからなかった。
この服、本当に嫌なんだが仕方ない。
くるりとその場で一回転すれば、布がひるがえる。
やらなければ良かったと後悔して、このことを記憶から抹消する。
「とにかく出口を探そう……帰らなきゃ、みんなのところに」
精神的に疲れてはいるが、休んでいる暇はなかった。
深呼吸を何度も繰り返して気持ちを落ち着かせると、俺はこの場所から逃げ出すために気持ちを切り替えた。
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