第49話 将軍との戦い
将軍が現れた。
その力のせいで、青かった空は赤黒く染まり、邪悪な空気が漂い始める。
久しぶりに見る将軍の姿に、俺は思わず目の前にいるレッドの背中に触れる。
何かに触れていないと、叫びそうだったのだ。
「大丈夫だクロ!」
自分だってきっと怖いはずなのに、俺を安心させるように笑ってくれた。
それだけで、震えていた体が落ち着いていく。
レッドは、やっぱり凄い。俺の救世主だ。
その存在だけで救われる。
「そうだ。ブラックには俺達がついているんだ。そんな変な顔するな。不細工だからな」
レッドに励まされたとはいえ、未だに震えている俺の頭を、ブルーが軽く小突いた。
いつものように冷たい感じに見えて、俺を励まそうとしてくれているのは分かっている。
だから安心させるために頷けば、鼻を鳴らされた。
「もうブルー、素直じゃないんだから! クーちゃん! 僕達と一緒に頑張ろうねっ! みんな味方だから!」
ピンクが可愛らしく笑いかけてくれた。
その手は、隠そうとしているが震えている。そっと手を握ると、力強く握り返された。
温かい。人との触れ合いは、ここまでほっとするものなのか。
「クロさん! 特訓の成果を見せつけましょう!」
グリーンも震えながら、力こぶしを作って励まそうとしてくれる。
将軍が怖いはずなのに、それでも怖いとは言わない。なんて勇気があるんだろう。
「……みんな……」
視界が潤む。
こんなにも俺の周りには、優しい人達がいる。
孤独だった怪人時代とは大違いだ。
将軍と俺の間に立ち塞がり守ろうとしていて、そしてちゃんと仲間として扱ってくれている。
こんな幸せなことなんて他に無い。
「……みんな、ありがとう。凄く嬉しい」
あまりにも嬉しくて、幸せで、自然と顔が緩んだ。
戦いの最中に気を緩ませるのは良くないから、慌てて隠したが完全にみんなに見られていた。最近は表情が緩んでしまうことは何回かあったおかげで、イケメンジャーのみんなは前よりは慣れている。
でも、将軍の前で笑うのは初めてだ。
だから目を見開き驚いている。
「お前……」
将軍の気配、というか雰囲気が冷たいものになった。
俺を睨みつけて、そして空からゆっくりと降りてくる。
「そんなところで何をしている?」
その視界には、俺しか映っていない。
かなり怒っていて、今すぐにでも殺されてしまいそうだ。
みんなもそう思ったのか、俺のことをさらに隠してくれる。
「邪魔だな」
吐き捨てられた言葉。
そんな将軍に怪人が話しかけた。
「しょ、将軍様。こんな奴らなんて、さっさと殺しちゃってください!」
「うるさい」
「しょうぐべじゃkhfじぇんxl!?」
一瞬のことだった。
将軍が手をかざし、たったそれだけの動作で、怪人は爆散した。
かけらがこちらまで飛んできて、体や地面を汚す。
頬に触れた。
手にベッタリと血がついて、怪人が死んだのだと理解する。
「な、なんてことを……」
まるで害虫を追い払うかのように、怪人を殺した。
血も涙もない姿は、俺の知っている将軍だ。
その場に緊張が走る。
「邪魔だったからな。こいつは役に立たん。いらないものは始末する他ないだろう。当たり前のことだ」
ああ、やはり血も涙もない。
「そんなの許せるわけない! 俺達はお前を絶対に倒してやるからな!」
そんな将軍を、イケメンジャーとして許せるわけが無かった。
レッドが叫び、そして俺達は戦闘態勢に入る。
「お前は、そこで何をしている?」
首をゆるりと横に傾げた将軍は完全に苛立っていた。
その質問は俺に向けられたものだったけど、そんなの見たままだ。
「俺はイケメンジャーだ。だから、あなたを倒す……!」
「ほお……」
怖い怖い怖い。
こちらを見てくるその目が、とても怖かった。
またこちらに手を伸ばしてきて、そして口を開く。
「それはつまらない冗談だな。俺を怒らせたいのか?」
もうすでに怒っているだろう。
そんな軽口は言えない。
「もういい。ここで話をしている時間は無い」
冷たい視線を向けたまま、将軍がパッと手を払うしぐさをした。
「!?」
その瞬間、体から力が抜ける。
地面に崩れ落ちた俺を、すぐに気づいたレッドが起こそうとした。
でもその手は届かない。
「お前はいつまで経っても学習のしないグズだな」
俺の体はふわりと浮き上がった。
抱き上げられたのは分かるが、状況を理解することが出来ない。
これは、前にピンクが貸してくれた少女漫画で読んだことがある。
お姫様抱っこだ。
それだけなら、まだここまでパニックにならなかったと思う。
問題はそれをしているのが、将軍だということだ。
「クロ!」
レッドが焦って俺のことを呼ぶ声が遠い。
「うるさいな」
煩わしそうに顔をしかめた将軍が、俺を見つめた。
「しょ……ぐん……?」
その目は、昔リリのことを見ている時と同じだった。
愛おしいものを見るような、そんな目だ。
でも俺にそんな顔を向けるわけがないから、きっと気のせいだろう。
「今は寝ていろ。後でゆっくり話をするからな」
将軍の声に誘われるように、俺は意識が遠のいていった。
次に目を覚ました時、どうなっているのだろうか。
そんな不安が胸をよぎるが、抵抗することが出来なかった。
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