第48話 怪人との戦い
「……遅い」
「ごっめーん! 避難させるのに、ちょっと手間取っちゃってー」
レッドのところに戻ると、すでにブルーとグリーンも来ていた。
腕を組んだブルーが俺達を見るなり、遅いと眉間にしわを寄せながら言い放つ。
「俺が上手く出来なかったのをピンクがフォローしてくれたんだ。待たせてすまない」
「そ、れなら別にいい」
「ふーん。クーちゃんには優しくするんだー。まあ、いいけどねー」
どう考えても遅くなったのは俺のせいだから謝れば、ブルーの表情が崩れた。
それに対して頬を膨らませたピンクが、ブルーの肩の辺りを軽く殴った。
力を入れていないから、本気では怒っていない。ただ文句を言いたいだけなのだろう。
「……ほら、怪人が待ちくたびれているから行くぞ」
咳払いをしたブルーは無理やり話題を変えて、怪人の方に視線をそらした。
「クロ、大丈夫そうか?」
初めての俺に、レッドが確認のために聞いてくる。
でもさすがに舐めてもらったら困る。
「今までずっと見てきたから大丈夫だ」
みんなの戦いの様子を、一番見てきたのは俺だ。
その場にいなくても、流れは完全に把握していた。
「それなら大丈夫だ! めちゃめちゃに暴れてやろうな!」
それはどうなんだと思ったが、俺も確かに暴れたい気分だった。
「やってやるか」
俺は広場にいる怪人を見た。
「……あれは」
「知っているのか?」
「いや、見覚えはない。初めて見たな。それに……」
「やっぱりクロも気づいたか!」
その怪人を見て、すぐに違和感に気づいた。
この前来た幹部に比べて、圧倒的に弱すぎるのだ。
どう考えてもおかしい。
「……なにかの罠か?」
「その可能性は高そうだねー。どうするー?」
「とにかく倒すしかないかもしれませんね」
「頑張ろうか!」
「……みんな頑張ろう」
嫌な予感はするけど、倒さなくてはいけない。
だから俺達は、怪人の元に駆け寄る。
「そこまでだ!」
レッドが前に出て、代表して叫んだ。
暴れ回っていた怪人は、こちらを見てそして笑った。
「ようやく来たか。待ちくたびれてたぞ、イケメンジャー。よしよし、裏切り者のブラックも来ているみたいだな」
その視線の先には俺だけがいた。
相手の目的は、完全に俺のようだった。
気持ち悪さを感じたが、みんながいるから大丈夫だろう。
「暴れるのはそれまでだ! さっさと地球から出ていってもらうぞ!」
「はっはっは! 本当に出来ると思っているのか?」
力の差は相手だって感じているはずなのに、全く自信は崩れていない。
何か策を隠し持っているのか。
油断することは出来ないと、俺達は目線で確認し合う。
「なあ、裏切り者。将軍様を裏切ってまで、そいつらと仲良しごっこをして楽しいのか? お前を待っているのは死だ。せいぜい苦しんで死ね」
「クロは強いんだ。お前達なんか、将軍なんかに負けるわけないだろ!」
「ああ、愚かだ。笑ってしまいそうなぐらい愚かだ。何も知らない無知な人間共は、家畜や奴隷にもならなそうだ。将軍様に言って、全員殺してもらおう」
どんどん違和感が大きくなっていく。
このままだとマズイ、そう思うが撤退するわけにはいかない。
レッドに助けを求めたいが、この状況で出来るわけも無かった。
「将軍様の宝をどこへやった?」
「……教えるわけない」
リリがどこにいるのか、本気で言うとでも思っているのか。
なぜ今、この話をし始めたのだろう。
戦闘に入らずに会話が始まり、俺達は変身をする機会を窺うしかない。
相手が攻撃する意志を見せて来なければ、戦闘を始めてはいけないという、面倒な制限が設けられているせいだ。
人間というのは、時に変なルールに縛られる。今の俺は人間側だから、それに従う必要があった。
「まあ、大体は予想出来るがな。イケメンジャーが所有している施設のどこかだろう。全てしらみ潰しに襲っていけば、そのうち正解にたどり着くはずだ。そうすれば、こんなどうでもいい惑星なんて潰してしまえばいい」
ケラケラと何が楽しいのか、怪人は笑い続ける。
下っ端でさえも攻撃をしてくる気配が無くて、ただお互いに睨み合った状態が続いていた。
「……ブラック、嫌な予感がするから後ろにいろ。お前が危ない気がする」
「……分かった」
ブルーに忠告を受けて、俺は素直に後ろに下がった。
怪人の視線にさらされて、気味の悪さを感じていた。
「お前の目的はなんだ? 何をするために、ここに来たんだ?」
様子のおかしい怪人に、レッドが俺を背中に隠して守ろうとしてくれる。
「やっと気づいたか。でももう遅い。時間稼ぎの時間は終わった! お前達は、ここで死ぬんだよ!」
その時、上空から物凄い力を感じた。
空を見れば、そこには見覚えのある姿が……
「……しょ……ぐん……」
圧倒的な存在感。
白い鎧で全身を包んだ、怪人のボスである将軍が腕を組んで俺達を、俺を見下ろしていた。
「あ、あ」
倒すと決意したはずだった。
それなのに今の俺は、ろくな言葉を発することも出来ず、その場で震えるしかない。
こんなの、叶うはずがない。
姿を見た途端やる気がしぼみ、俺は負けを覚悟した。
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