第47話 人との戦い





 結局、テレビの中継車と共にたどり着いたのは、普段ならイベントが催されているような大きな広場だった。

 その中心で下っ端を引き連れた怪人が、物を破壊したりと好き勝手に暴れている。


 今は怪人の出現で人の姿はほとんど無く、残っているのは中継車に乗っているのと同じ、野次馬根性に溢れているようなタイプだけだ。

 俺が来ることを知っていたのか、たまたまか、こちらにスマホのカメラを向けて立っている。

 元怪人だとバレてから初めて公に姿を現した俺に、好奇の視線が向けられていた。

 どう動くのかを、世界に発信しようとしているのだろう。それをやるのは別の人間だと思うが、言ったところで聞く耳を持たなそうだ。



「まだみんな来ていないみたいだな! 戦うのは待つか!」


「ああ。でも、今いる人を避難させた方がいい」


「それもそうだな! よし、やるか! もし怪人が暴れだしそうだったら、その時は待たずに戦うぞ!」


「分かった」



 スマホで撮られているからというわけではなく、安全を確保するために避難させる必要がある。

 レッドと分かれた俺は、こちらにカメラを向けている人に近づいた。



「うっわー。怪人ブラックが来た。殺されるんじゃね、やっば」



 まだ話しかけなくても、かなり面倒くさそうな感じだと分かる。

 それでも安全なところに避難させる義務があるから、俺は出来る限り穏便に話をするために手を広げて、何もしないというアピールをした。

 一挙一動に気が抜けない。どんな揚げ足をとられるのか、普通とは違いそうだからだ。



「ここは危険だ。今から戦いになる。安全な場所に避難してくれないか?」



 出来る限り丁寧な口調で。

 何とか話し合いだけで離れてもらうように優しく言ったが、今この場に残っている人間が一筋縄でいくはずもない。



「はー? 何様のつもりなんだよ。元怪人のくせに、人間様に指図するのか?」



 一発殴って気絶させれば、運びやすくなるだろうか。

 さすがに人目があるから出来ないが、結構本気で考えてしまった。それぐらい、俺とっては苦手なタイプだった。

 黙り込んだ俺を見て勝ったとでも思ったのか、調子に乗った様子でレンズを向けられた。



「ほらほら、なんか言い訳してみろよ。それともやるか? 俺に攻撃でもするか?」



 こういう人間ばかりじゃないと知っていても、こういう人間のことも守らなきゃいけないとなると、微妙な気持ちになった。

 避難させるのが初めてなせいもあるのか、全く上手くいっていない。人一人も満足に動かすことが出来ない。

 みんなが来る前に、何とかしたいのに。



「おいおい。何だよ、その顔。やっぱりお前、怪人のスパイなんだろ。イケメンジャーの奴等も馬鹿だよな。敵か味方か区別がつかないなんて。お前なんかが、なんでメンバーにいるんだよ」



 ああ、駄目だ。

 俺のことはどれだけ馬鹿にされようが、悪く言われようが我慢出来る。

 でも、イケメンジャーのみんなのことを悪く言うのは許せなかった。


 目の前が赤くなり、男に向かって手が伸びる。

 こんなことをしたら、本当にイケメンジャーにいられなくなる。

 どこか冷静な頭は警告するのに、俺は無視した。



「ほーんと、クーちゃんって僕達のことが好きだよねー」



 取り返しがつかなくなるまで、あと少し。

 そんな時に、安心する声と共に俺の前にピンクが割り込んできた。



「ぴ、ピンクちゃん」



 すると今まで威勢の良かった男が、明らかにうろたえ出す。

 ピンクを見て顔を赤らめ、挙動不審になった。

 先程までとの態度とは、まるで大違いだ。

 あまりにも分かりやすすぎて、俺は勢いに任せて行動しなくて良かったと息を吐いた。



「ピンクちゃん。きょ、今日も可愛いね」



 デレデレとしまりなく笑いながら、レンズの先は俺じゃなくピンクに移った。

 どっちにしても撮られている。

 俺が素早く対処出来なかったせいだ。



「……ピンク」


「大丈夫だよー。僕に任せておいてー」



 思わず服の裾を引っ張れば、こちらを見たピンクがふにゃりと笑う。

 何か作戦があるみたいなので、任せて邪魔をしない方が良さそうだ。



「ごめんねー。これから、僕達怪人を倒さなきゃいけないんだー。あなたが怪我をしたら大変だから、安全な場所まで避難してくれないかなー?」



 よく頼み事をする時にやっている、ピンク必殺の上目遣いだ。

 ブルーに対しての勝率は五分五分だが、今回は違う。



「ぴ、ピンクちゃんがそう言うのなら! 頑張ってね!」


「ばいばーい」



 俺の時とは百八十度違う様子で、素早く消え去っていった。

 あまりの早さに、その背中を目で追っていれば、ピンクが低い声でボソリと呟いた。



「あれは会員番号18782だねー……」



 自分のファンクラブの全員の顔と番号を覚えているのかとか、これから何かをするつもりなのかとか、気になることはたくさんあったけど、触れたら恐ろしいものを呼び起こそうだから止めておいた。



「それじゃあ避難させられたし、行こうかクーちゃん!」


「ああ」



 俺の方に振り返った時はいつも通りになっていたから、そ恐ろしさは増したのだった。






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