第46話 初めての戦い
司令官の許可を得られ、正式に俺は最初から戦闘に参加することになった。
俺が登場するせいで怒るクレームは凄まじいものになるだろうが、司令官を含むみんなが気にするなと優しい言葉をかけてくれた。
俺の戦いぶりや怪人とは関係ないところを見せていけば、そんな声も落ち着くはず。
だから有無を言わさないぐらいの、活躍をしなければいけない。俺の肩にかかった重圧は大きいが、とにかく頑張るしか無かった。
自分の人間の姿を鏡に映し、俺は変なところはないかと確認する。体をひねったり、背中を見たり、バンザイをしてみたり、とにかく動いてみる。
この姿の俺は、ピンクがいうには強面イケメン? らしい。黙っていると誤解されやすいから、なるべく表情豊かにするようにとブルーに続けて言われた。最初の頃はグリーンも俺の顔を怖がっていたから、相当だっただろう。
基本的には表情が変わらない俺にはハードルが高い話だが、全てイケメンジャーのためだ。苦手でも頑張るしかない。
俺は鏡の前で、口を引っ張って口角を無理やり上げた。
鏡の中の俺は歪んだ表情になっていて、これじゃあ逆効果だと、指を上下に動かしてみる。さらにおかしな顔になった。
「何やってるんだ? クロ」
上手くいかないかもしれないと落ち込んでいると、通りかかったレッドが不思議そうに覗き込んでくる。それぐらい、俺は変な顔をしていたらしい。
「俺の顔は無表情だと怖いらしいから、笑顔を作る練習をしていた。でも、なかなか上手くいかないものだな」
レッドに対しては恥ずかしさとかはないから、素直に自分の状況を説明する。
「そっか! 今日からクロも参加するんだもんな! 練習していたのか!」
俺の簡単な説明だけで、レッドは不安を察してくれたらしい。鏡を覗き込みながら、俺からしたら羨ましいぐらいの笑顔になった。
「でも別に無理に笑う必要はないんじゃないか?」
「え?」
「作っている表情はどうしても変な感じになっちゃうだろ。いくら笑っていても、そんな顔は見てもいい気持ちはしないはずだ。だからどんなに怖い顔でも真剣にやっていれば、きっと自然にクロの気持ちは伝わるはずだ!」
「そんなものか?」
「そういうもんだ!」
俺の笑顔があまりに酷いから、気を遣ってくれたのだろう。
そのおかげで、随分と気持ちも軽くなった。
「そうだな。こっちに集中しすぎて戦いがおろそかになったら、元も子も無いか。分かった。余裕が出来てから、頑張ることにする」
「ま! とにかく頑張ろうな!」
励ますために叩かれた背中は痛かった。
でも頑張れと言われているようで、一気に力がみなぎってくる。
『怪人出現の緊急通報あり! イケメンジャーは直ちに出動をお願い致します!』
「怪人が現れたみたいだ!」
「行こう!」
練習の成果は発揮出来なさそうだけど、それでも初めての戦いだからテンションが上がる。
俺は今まで基地でしか着ることの無かった隊服のジャケットを、走りながら羽織った。
「他のみんなは!?」
「この感じだと現地集合だな! 俺と一緒に行こう!」
同じようにジャケットを着たレッドが、俺の腕を引いていつも乗っているバイクのところまで案内してくれた。
バイクはそれぞれ専用のがあって、もちろん俺のもあった。
ただ俺は今までロボットに乗って現場に向かっていたから、外で乗るのは初めてだ。
明かりの下、真っ黒なボディは輝いていて手入れの結果がよく出ている。
「よろしくな」
ようやく外に連れ出せると、俺はボディを撫でた。
「それじゃあクロ、はぐれないように俺についてこいよ!」
「分かった!」
地の利は完全にレッドにある。
バイクにナビはついているが、迷ったら本末転倒なので先導してもらった。
エンジンのかける音。ふかす音。
何回か乗ったことはあるけど、状況も気持ちも全然違う。
少しの緊張を持ちながら、先に走っていったレッドに続く。
モニター越しじゃない外の景色は、とても色鮮やかだった。
空が青く澄み渡り、見上げるぐらい高いビルの群れも、今の俺には違って映った。
「クロ、ちゃんと着いてきているか?」
「ああ、大丈夫だ」
レッドの後ろに着いていきながらも、景色を眺めて楽しんでいれば、隣に車が並走し出した。
走行の邪魔をしないためか、一定の距離はあけられているが、走りづらいのに変わりはない。
一体誰だ。
その答えは、中から覗くレンズですぐに分かった。
どこから情報を得たのかは知らないが、俺を出動している姿を追いかけようとしているのだろう。
メンバーカラーがあるから、真っ黒なバイクが走っていれば、俺だとすぐに気がつく。
大体の位置を把握していたら、見つけるのも追うのも簡単なことだ。
変なことをするつもりはなくても、非常にやりづらい。
これは、どこまで着いてくるのかと、うんざりした気持ちになった。
でもこういう中継の映像で評価されていくので、邪険には扱えない。
どうかこの先にいる怪人が、余計なことを言わないように。
確率はゼロに近くても、そう祈るしか無かった。
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