第20話 強化合宿二日目






「あー、驚いた。ブルーって、あんなに大きな声が出せるんだな」


「少し驚きました」


「……悪い、色々あってカッとなった」


「本当に、いい迷惑だよねー」


「……お前にだけは言われたくない。潰すぞこら」



 朝食の場は、微妙にギスギスとした空気が流れていた。

 でも局地的なもので、ブルーとピンクだけの話だ。


 レッドとグリーンは別の部屋で寝ていたから、あまり騒ぎを詳しくは知らない。

 ブルーの叫び声に起きてきたかと思えば、大きくお腹を鳴らした。

 だから食事を用意しながら、簡単に朝にあったことを説明した。



「それにしても、そんなに大きな芋虫なら見てみたかったな!」


「その名前を言わないで! 思い出しちゃうからー! 今日もクーちゃんと一緒に寝たいよー。僕のこと守ってー」


「えっと、俺は別に……」


「それは昨日決めたばかりだろ。昨日はピンクとグリーン、今日は俺とレッドがブラックと一緒に寝るんだ。これは決定事項」


「もー。融通きかないなー。いいじゃーん。クーちゃんも僕と一緒の方がいいよねー?」


「え? あ……」


「おい。ブラックを巻き込もうとするな。押される可能性があるだろ」


「……それを狙ったのにー」



 ピンクは文句を言いながらも、諦めたみたいだ。それでも頬を膨らませているので、指でつついて空気を抜く。

 ぷすっという音とともに空気が抜けて、何度かそのやり取りをしていると、ピンクがケラケラと笑った。



「子供じゃないんだからー! つつきすぎー!」


「柔らかくて、つい」


「えー。それって太ってるって言いたいのー?」


「いや、きちんと手入れしているんだなって、いつでも触っていたくなる」


「うおう……油断していたところで、この攻撃は精神的にも身体的にもくるねー……」



 胸を押さえてうずくまるピンクは、顔を真っ赤にさせて、そのまま黙った。

 俺はレッドが作ってくれた朝食を食べながら、とりあえず頭を撫でておいた。



「ピンクを黙らせたかったら、ブラックに任せるのが一番だな」


「扱いが上手ですね。勉強になります」



 そんな俺とピンクの様子を眺めながら、勝手な感想をいうブルーとグリーンは視線が合うとガッツポーズをしてきた。

 一体何を頑張れと言っているのか。

 ジト目を向ければ、顔をそらされる。



「みんなが仲がいいのは、喜ばしいことだな!」



 たぶん、それは違う。







 二日目の今日は、精神統一をするために山登りをする予定だ。

 体を動かすことも大事だけど、精神を鍛えることも必要である。

 これから先、どんな強敵が現れるか分からない中で、心を落ち着かせて戦いに挑む場面は増える。

 そのために山登りをしながら精神統一、という形に決まった。


 もちろん、ただの山登りで終わらせるわけがない。

 普通の登山道じゃなく、山を直線で登るルート。

 もちろんちゃんとした道なんてあるわけが無いし、岩壁をクライミングしたり、昨日魚釣りをした川を回り道をせずに突っ切ったり、その道のりは険しい。

 でもそれを乗り越えなくては、怪人になんか太刀打ち出来るわけがない。

 分かっているからこそ、みんな朝食の場の緩さがなくなって、スタート地点に来た頃には顔が引き締まっていた。


 昨日の時以上に入念に準備体操をして、各々の腰につけたポーチの中には、様々な場面に対応するための道具が詰まっている。

 サバイバルをしたことがあるレッド厳選のもので、俺には何に使うのか分からないものまであった。



「頂上に行ったら、そこでピクニックでしょー。たっくさん動かなきゃねー」


「途中で弱音吐いても、その時は置いていくからな」


「大丈夫ですー。そっちこそ細い腕で岩とか登れるのー? 落ちても知らないからねー」


「心配ご無用。鍛え方が違うんでね」


「へー、そう。クーちゃんは僕と一緒に走ろうねー。岩を登る時は手を貸してあげるからー」


「ありがとう」


「グリーンも何かあったら遠慮せずに言いなよー。自分の意見を飲み込んでいることがあるの、ちゃんと分かってるんだからねー」


「あ、はい。それじゃあ何かあったら話します。……たぶん。きっと……はい」


「なーんか心配だなー。少しずつ慣れさせるしかないかー」



 仲間になるのが遅かったからか、元からの性格なのか、グリーンはいつも遠慮がちだ。

 優しいとも言えるが、たまに怪人に対しても同情の気持ちを感じてしまい、本来の力が出せない時がある。

 それはマズいと、他のメンバーと相談を何回かした。

 でも様子見というのが、今のところの判断だった。


 グリーンを甘やかそうと一番頑張っているのはピンクだ。

 元々世話焼き体質というのもあるけど、最年長だから年下を甘やかしたいという気持ちが強いらしい。


 誰が最初にグリーンから甘えてもらえるか。

 メンバーの中で競っていることは、グリーンには内緒の話だ。


 この合宿の期間中に、その姿を見せてもらえるだろうか。

 もちろん、強くなるためにここに来たという本分は忘れていない。これはおまけみたいなものだ。

 それを楽しみにしながら、俺達はスタートの合図を待った。





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