第18話 一日目の終わり






 レッドの手料理に舌鼓を打ち、全員が満腹になるまで食べまくった。

 ダイエットや食事制限をすることが多いピンクさえも食べていたのだから、相当美味しかったのが伝わるだろう。



「あー。お腹いっぱいで動けなーい。このまま寝たい気分だよー」


「寝たらデブになるな」


「なーんか聞こえた気がしたけど、空耳だなー。きっとそう」



 ブルーが余計な言葉をかけても、いつもみたいに口喧嘩に発展しないから、きっと動くのも面倒なんだろう。



「凄く美味しかったです。レッドさん、ありがとうございます」


「みんなが喜んでくれて残さず食べてくれたから、俺も作ったかいがあった!」



 レッドに料理を作ってもらったから、後片付けは他のメンバーで分担して行っている。

 洗い物を担当していた俺は、シンクのところに立って泡まみれになりながら、みんなの会話に耳を傾けていた。



「それにしても刺身まで作れるなんて凄いな。包丁さばきも手馴れていたし、見ていて危うさが全然無かった。あれなら、すぐにでも店を開けるレベルだろう」



 あまり褒めることが少ないブルーでさえ褒めているし、大げさなことを言うタイプじゃないから、本当にレッドの腕前は店を開けるレベルなのか。



「そんなに褒められると、なんか照れるな! 店を開くのは興味が無いわけじゃないけど、今はヒーロー活動の方が大事だからな……平和になったら店でも始めるか!」


「そしたら僕、毎日でも通っちゃうなー」


「僕もです」


「俺も」



 ……平和になったらか。

 怪人側が地球を諦めるか、降参して地球に平和が戻った時、俺はどうなっているんだろう。

 ここに残るという選択肢があったとしても、イケメンジャーは解散しているはずだ。


 元怪人という背景を持つ俺のことを、拾ってくれるような珍しい人間かそうそういるとは思えないし、司令官に頭を下げて何か仕事を紹介してもらう他にないか。


 五人でいられる時間は、そう長くは残っていないのかもしれない。

 そんな悲しくなることを考えながら、一人で落ち込んでいるとレッドに肩を組まれた。



「その時は、クロも一緒にやろうな!」


「俺?」


「えー! ずるーい! 僕もクーちゃんと一緒にいたーい!」



 皿を洗っていた手が止まる。

 それぐらい俺は驚いていた。

 レッドが想像する未来に、俺は存在しているのか。一緒にいるという選択肢があるのか。



「クロは皿洗いが上手だから裏方も出来るし、丁寧だから絶対に接客も向いているはずだな! 俺は一つのことに集中すると周りが見えなくなるから、クロにはそこら辺も支えて欲しいんだ!」


「俺なんかが出来るだろうか?」


「クロにしか出来ないと思う!」


「それなら、もしも店を開く時は……俺も働かせてくれ」


「おう!」



 未来を想像なんかしていなかったのに、レッドのおかげで希望が持てそうだ。

 レッドに肩を組まれたまま皿洗いを再開すれば、後ろでひそひそ話す声が聞こえてくる。



「……あれって聞きようによっては、プロポーズみたいですね……」


「しっ! そういうこと言ったら本当になりそうだから、滅多なことは言っちゃ駄目だよ!」


「あ、はい。すみません」


「それにしても、あれは天然なのか計算でやっているのか。どっちなんだろうな」


「レッドって時々、というか結構頻繁にクーちゃんに関してはいいところかっさらうことが多いよねー。まあ、クーちゃんを仲間にしたっていうのがあるんだけどさー。僕達とはレベルが違うっていうか」


「越えられない壁っていう感じです」


「ブラックも一番懐いているからな。何かあると、すぐにレッドのところに行く」



 どうやら、俺とレッドの話をしているみたいだ。

 プロポーズとかは意味不明だけど、レッドに対する差があるというのは分かっている。


 俺の秘密とか弱みとかを知っているから、何かがあった時はまっさきにレッドの顔が浮かぶ。

 本当は駄目なことだろうけど、司令官かレッドか、正反対の命令をされてどちらの言うことを聞くかといえば、絶対にレッドの方だ。断言出来る。


 別に隠していたわけではないが、そこまで俺の態度はあからさまだったのだろうか。少し反省しなくては。



「クロ、俺達はずっと一緒だ。怪人とかそんなの関係なくな」



 また一人反省会になっていたところを、レッドがいつもよりは小さな声で話しかけてきた。



「クロのこと、丸ごとぜーんぶ受け止めるぐらい朝飯前だからな。むしろ頼らなすぎだから、もっと甘えていいんだ。みんなそれを望んでいる」


「本当に甘えてもいいのか。俺は元々敵だったのに」


「そんなのもう誰も気にしてない。クロはクロ。俺達の大事な仲間。だから、こうやって一緒に戦ってるんだ」


「……そうか」



 仲間。その言葉は、たった二文字だけど、とても重みがある。



「頼れるように頑張ってみる」


「そうしてくれ。クロが甘えるのを、みんな首をながーくして待っているから」



 頼ることをほとんどせずに生きてきたから出来るかどうか自信が無いが、そこまで言ってくれるのなら、少しは頼ってみよう。

 さて、どんなふうに甘えようか。


 そんなことを考えながら、強化合宿の一日目は終了した。




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