第17話 強化合宿再開
あれから何とかごまかして、キスをしたり弱音を吐いたことは隠し通した。
みんな納得していなかったけど、本気で嫌がれば渋々諦めてくれた。
そういうわけで今は、改めて川までの道のりを走っている。
「大丈夫? 休憩したかったら言ってねー」
「大丈夫だっ。みんなも大丈夫か?」
「大丈夫です。まだまだ行けます」
「こんなの苦でも無い」
「俺も大丈夫だ!」
俺を中心にして、みんなが周りを囲んで走っている。
また神隠しに遭わないための対策らしいが、本音を言うと走りづらい。
でも俺のためを思ってしてくれているから、文句は言えなかった。
「あと、二キロぐらいで着くと思うから、頑張ろうぜ!」
「二キロー? 余裕余裕ー!」
普段も運動はしているので、少し息切れするぐらいで済んでいる。
他のみんなも同じぐらいの疲労具合なのか、誰も止まろうとは言わなかった。
そのままペースを落とすことなく、目的地である川まで走りきった。
キラキラと輝く川は、さっきの湖に負けないぐらい水が澄んでいる。
「ゴール! すっごい綺麗なところだねー!」
「こら、あんまりはしゃぐと転ぶ」
「うわあっ!」
「……言わんこっちゃない」
「大丈夫か?」
川にテンションが上がったピンクが、岸を走って小石につまづき、勢いよく転んだ。
顔から突っ込んだので、怪我をしたんじゃないかと慌てて駆け寄った。
「いたたー。鼻打っちゃったー。僕の鼻潰れて無いよね……」
「大丈夫だ。少し赤くなっているが、いつものように可愛い」
「ふぁっ! ちょっとみんな聞いた? 可愛いだってー!」
「はいはい。聞いた聞いた。良かったなー」
「その言い方ムカつくー。自分が褒めてもらえなかったからって拗ねちゃってさー」
ぶつけた鼻は真っ赤になっていたが、鼻血は出ていないし、その容姿が損なわれることは無い。
それを素直に言えば、鼻を押さえながらも嬉しそうに笑った。
痛くないのならいいけど、本当に大丈夫なのだろうか。本人が言っているのなら、大丈夫だと信じよう。
俺はポケットからハンカチを取り出し、一応鼻を冷やすために川の水に浸けて軽く絞り、ピンクの鼻に当てた。
「ありがとうー。冷たくて気持ちいいー」
ふにゃりと笑ったピンクは、そのまま川のところに進んでいく。
「すごーい。魚が泳いでいるのが見えるねー」
確かにキラキラと輝いている川の中には、数匹の魚が自由に泳いでいるのが見えた。
レッドがあの魚を釣って、今日の晩御飯にすると言っていたけど、少しだけ可哀想だと思った。
でもそんなこと言っていたら、食べ物を食べるということが出来なくなる。
可哀想と思うんじゃなくて、命をいただく感謝をするのが一番だ。
「今日の夕食分、魚を釣ったら少しぐらいは川に入っても良い?」
「それは名案だな! みんなもいいよな?」
「僕は賛成です」
「……反対する必要が無いだろ。ブラックもいいよな?」
「あ、ああ」
不安な部分はあったけど、川で遊びたいという欲求の方が勝った。
「そうと決まったら、さっさと釣っちゃおうー!」
にわかにやる気を出したピンクの声を合図に、俺達は予め持ってきていた釣り道具を取り出した。
「もう、これぐらいで十分じゃないか?」
ブルーに言われて、いつの間にか熱中していた手を止める。
水の入ったクーラーボックスには、五人分ぐらいは余裕なぐらい魚が入っていた。
これ以上釣っても余らせるだけだから、ブルーが止めてくれて助かった。
「こういうの入れ食いっていうんだっけ? すっごいたくさん釣れたねー」
クーラーボックスの中を覗き込みつつ、ピンクは目を輝かせた。
「みんな一定の釣果があったからな。特にグリーンとブラックは初めてだと思えないぐらいには釣りまくってたな」
「やればやるだけ釣れたので、とても楽しかったです」
「こんなにたくさんあれば、今日は豪華な夕食になりそうだ!」
「やったー! 楽しみー!!」
魚料理は今まで何度も食べてきたが、自分が釣った魚を食べるというのは、もちろん初めてである。
「これなら、どうやって食べても美味しいぞ! 俺のボランティアで培った料理スキルで、色々なものを作るから楽しみにしててくれ!」
「レッドは料理上手だから楽しみー!」
これまで何度か、レッドは基地でも手料理を振舞ってくれたことがある。
ボランティア活動をしているから自炊には慣れているようで、そのどれもが絶品だ。
「魚をさばくのは技術がいると聞いたが、大丈夫なのか?」
「俺に任せろ。マグロの解体ショーだってやったことがあるし、ちゃんと免許だって持っているからバッチリだ!」
そんな資格まで持っているのか。
本当にレッドはなんでも出来る。
尊敬の眼差しで見ていると、レッドが頭を撫でてきた。
「美味しいご飯をたくさん食べれば、明日も元気に頑張れる! お腹いっぱい食べろよ!」
「……楽しみだな」
「っ! クロのために頑張るな!」
みんなで外でご飯を食べられるなんて、言葉に表せないぐらい嬉しい。
口元がゆるゆると緩めば、レッドの方がさらに嬉しそうに笑って俺に抱きついてきた。
すぐに近くにいたブルーに、頭を殴られて渋々離したが、それでもテンションの高さは変わらないままだった。
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