第12話 荷物整理と強化合宿





 俺とブルーとピンクの三人で協力して、なんとかピンクの荷物を減らすことに成功した。

 ぬいぐるみ(中)やぬいぐるみ(小)が出てくるたびに、ブルーのこめかみに青筋が浮かび、今にも爆発してしまいそうだったが、時間をかけている場合じゃないと思ったのか、説教には発展しなかった。



「次……グリーン」


「は、はい!」


「……まあピンクに比べれば変なものは持ってきていないな。でも一つだけ聞きたいことがある。この大量の保存食はなんだ?」


「もし何かあった時のために必要だと思ったからです」


「確かに非常事態のことを考えて準備するのは正しい。でもこれから先に行く場所は安全が確保されている。だから必要な分だけ持っていこうな」


「分かりました……すみません」


「いや、みんなのことを思ってだろ? その気持ちは大事だし、嬉しいよ」


「あれー? なんか僕の時と対応が違くない?」


「お前の方がタチが悪いからな」


「ひどーい。差別だー」


「お前は自分の行いを、もっとよく考えてみろ」


「うわーん。ブルーが僕のことをいじめるよー!」



 ピンクが俺に小走りで突撃してきたから、腕を広げて受け止める。



「ブラック! ピンクを甘やかすな! 調子に乗る」


「でも、泣いているし」


「どう考えても嘘泣きだ。そいつの演技に騙されるなよ」



 胸に抱きついてきているピンクの頭を撫でていると、ブルーが腕を組んで睨んできた。


 そうか、人間は悲しくなくても涙を流せるのか。勉強になった。

 それでも冷たくすることは出来ず、頭を優しく撫でた。



「……僕、クーちゃんが可愛すぎて死にそう。こんな子、他所に出せないよ。お嫁には絶対に行かせない……」


「何を馬鹿なことを言っているんだ、と言いたいところだけど、確かに一人にするのは不安な危うさがあるな。ブラック、知らない奴に話かけられても無視するんだからな」


「ん? んん?」


「返事は、はいだ」


「は、い」



 生物学上、俺は男だ。

 嫁に行くのは、普通女性だろう。

 二人は納得しているみたいだけど、地球人にしか分からないジョークなのか。

 俺は分からないから、とりあえずあいまいに笑っておいた。




「なあなあ、そろそろ正座が疲れてきたんだけど、なんで俺は正座をさせられているんだ!?」



 俺でも分かった。

 レッドの話しかけるタイミングは最悪だと。

 案の定、こめかみの青筋が復活したブルーは、怒りに拳を震わせた。



「それはな……お前が一番持ってきている荷物がおかしいからだよ!」



 周りを娯楽用品や食材の山に囲まれているレッドに対して、ブルーの雷が落ちるのは当たり前のことだった。

 さすがの俺でも庇いきれない。




 レッドの荷物も何とか減らして、ようやく出発の準備が整った。

 ここまで辿り着くのに、ブルーが怒りで死ぬんじゃないかと不安になったけど、何とか持ちこたえた。


 基地の人が運転するバスの中で、俺達は顔を見合わせる。

 セキュリティや色々な面があるから、どこに行くのかは教えてもらえず、バスの窓は外の景色が見えないように黒いシートが全面に貼られていた。

 だから景色を眺めて時間を潰すことも出来ず、目的地に辿り着くまでの間、暇になってしまったのだ。



「そういえば聞いてなかったけどー、強化合宿って具体的に何をするのー?」


「あれっ? 言ってなかったか?」


「……誰も聞いてないからな」


「そうだったか。悪い悪い。とりあえず今日は体力強化だな。せっかく山に来ているんだから走ろう!」


「えー。せっかく可愛い服着てきたのにー。まあ、最近忙しくて運動出来てなかったから、ちょうどいいかー」


「が、頑張ります!」


「レッドにしてはよく考えてるじゃないか」


「司令官と相談して決めた!」


「……ま、そんなところだろうと思った」



 他愛のない話をして笑いながら、俺はこれから行く山に期待していた。

 映像やロボットに乗って外に出る時には見たことがあるけど、この姿で行くのは初めてだ。

 緑に囲まれた場所、動物や昆虫、興味のそそられるもので溢れている。



「休憩時間には近くの川で夕飯の魚釣りをしよう! みんなの分の釣竿は用意してもらってるから」


「釣りなんて初めてです」


「やり方はあっちについた時に教えるな! 川はすっごく綺麗だから、水遊びも出来るぞ!」


「やったー! 夜はどこに泊まるの? テント?」


「一泊だけならそれでも良かったけど、ベッドで寝た方が疲れもとれるだろう? だから近くにある別荘を使わせてもらって、みんなで寝る予定だ!」


「それも司令官ときめたんだな」


「おう!」



 呆れた顔をしながらも、ブルーの表情はどことなく浮かれている。

 ブルーだけじゃない。

 他のメンバーも、いつもよりテンションが上がっていた。


 怪人との戦いが苦しくなってきた中で、それぞれが悩み苦しんでいたのを、直接は見ていないけど知っている。

 だから今回の強化合宿は、いい息抜きにもなるだろう。

 悩みや苦しみから解放されれば、みんなはもっと強くなる。


 二泊三日の強化合宿。

 俺は始まったばかりなのに、すでにもう満足する気持ちで満たされていた。




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