第10話 ストレスと趣味と
怪人側が宝を探しているという話は、俺にとって嫌な情報だった。
あの後レッドが大丈夫だと慰めてくれたけど、残念なことに不安な気持ちが消えることは無かった。
将軍はまだ動いていないが、動き始めたら今の状態のままでいられるわけが無い。
立ち向かわなきゃいけない問題だった。
将軍だって俺と宝が一緒にいることぐらい、すでに知っているだろう。
だから地球にいる俺を探している。
裏切り者以前に、そっちが理由で殺されそうだ。
将軍の溺愛ぶりを思い出せば、子供だって簡単に予想出来る。
絶対に殺されるわけにはいかないし、奪われるわけにもいかない。
そのためにイケメンジャーに来たのだから。
でも、そう簡単に上手く事が運ばないのは分かっている。
それでも望みをかけた。
「クーちゃん、最近元気ないねー」
あまりにも悩んでいたのか、ピンクが俺の不調に気づいた。
心当たりがありすぎるから、ギクリと肩が揺れる。
「どうしたの? 僕には言えるよね?」
俺の態度はバレバレで、ピンクはいい笑顔で近づいてきた。
「クーちゃん気づいてないかもしれないけど、目の下にクマが出来てるんだよ。悩み事があるのバレバレだから」
「少し眠れないだけだ。色々やることがあって、夜更かしをしすぎた」
クマが出来ているという目元をくすぐられ、俺はくすぐったさに目を細めながら言い訳をした。
眠れないのはごまかせないから、理由をごまかすしかない。
「色々って何ー? 僕達が帰った後にも働いてるのー? それはさすがにブラックだよー。クーちゃんのことじゃなくてねー」
「そういうわけじゃ」
「それじゃあ何か趣味でも見つけたのー? 知りたいなー」
「えっと……」
趣味と言われても、そんなものは無い。
でも、そっちだと勘違いしてくれた方がいいか。
何がいいかと考えて、パッと本棚が目に入った。
「あそこにある本」
「本?」
「勝手に読んで悪いが、少し見たら面白かった。読書? と言うんだよな」
これは嘘じゃない。
怪人が出なくて暇な時に、地球の勉強をするために勝手に読ませてもらった。
なかなか興味深いことが書かれているものもあって、結構楽しめた。
「あそこにある本ってたしか……」
「俺のだ」
「うわっ。びっくりしたー。急に出てこないでよー」
「そうか。あれはブルーのだったのか。勝手に読んで悪かった」
「いいや。別に構わない。それよりも……」
ブルーの本だとは思ってもみなかった。
グリーンのだと決めつけて読んでいたから驚きだ。
どちらかというと子供が読むような種類のものまであった。
そのおかげで日本語の勉強になったのだが、ブルーのイメージには合わない。
「どの本が気に入った?」
「え?」
「まさか読んだのは一冊だけじゃないだろう。それなら好みなものぐらいあったはずだ。どういうのが好きなんだ?」
期待するような視線を向けられ、俺は下手な答えを言えないと、きちんと読んだ本を思い出しながら考える。
どれも楽しめたのだけど、その中でも特に何度も読み返している本があった。
「あれが好きだな……兄妹の冒険の物語」
子供向けのイラストがたくさん載っているその小説は、不思議な扉を見つけた兄妹が色々な世界を旅するものだった。
子供しかいない世界や、動物と話せる世界、現実には存在しないドラゴンという生き物が出てくる話はとても面白かった。
子供が読むものだと馬鹿にされるかと思ったが、好きだと感じたものをごまかしたくはない。
実際に見せた方が早いと、本棚からその本を取り出す。
表紙には可愛らしいイラストが書かれていて、小学生ぐらいの兄妹が満面の笑みを浮かべている。
読むだけで元気になれるような、そんな小説だ。
「ブルーってこういう本も読むんだー。いがーい」
「昔読んでいたのを、実家から送ってもらったんだ。ブラックの勉強のためにな」
「俺のためなのか?」
確かにここに置いてあるにしては、対象年齢が低いと思った。
まさか俺のためだったとは考えてもいなくて、本を持ったまま驚く。
「ブラックは地球のことを勉強しているだろう。こういう本の方が、楽しく勉強出来ると思ったからな」
「へー。ブルー優しいじゃん」
「うるさい。馬鹿にしているのか」
「してないよー。そういう優しいところもあるんだって感動してるんでしょー」
「そういう風には全く聞こえないな。……腹黒」
「んー? 何か言ったー?」
「いや、なんにも。気のせいじゃないか?」
俺を挟んで不穏な空気を醸し出している二人だが、とても仲が良さそうに見えた。
このままずっと話が続きそうな気配、でもあえて間に入る。
「ブルー」
「なんだ?」
「俺のために用意してくれてありがとうな。すごく助かった」
今お礼を言わないとタイミングを逃しそうだから、会話を遮ったとしても伝えておきたかった。
簡単にだけどお礼を言えば、ブルーとピンクが同じタイミングでまばたきをした。
やっぱり仲が良い。
そんな感想を抱いていると、ボンッという音がブルーから聞こえてきた。
「だ、大丈夫か?」
「あっはっは。真っ赤。トマトみたいー!」
突然真っ赤になったブルー、それを見て大爆笑するピンク。訳が分からず、ただうろたえることしか出来ない俺。
そんなカオスな状況は、グリーンが車で続いた。
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