第8話 レッドと俺





 みんなが俺に優しくはなったけど、それでも未だに一緒にいて落ち着くのはレッドといる時だ。

 俺が何も言わなくても、レッドは考えていることを察してくれる。

 自覚しているぐらい口下手なので、察してくれるのはとてもありがたい。

 だから基本的にレッドがいる時は、いつもそばにいた。

 レッドのそばにいることを嫌がっていないから甘えてしまう。


 前に俺がいて迷惑じゃないかと聞いた時があったが、何も嫌そうな顔をせずに笑顔で答えてくれた。



「クロは、昔家で飼っていた犬に似ているから、全然迷惑じゃないぞ!」



 その答えだけで、俺はレッドには遠慮しなくていいのだと分かった。

 レッドこそ生まれた時からのヒーローだ。

 この人が今、地球に生まれたことが、どんなに幸運なのかを広めたい気分だった。


 彼とあの時、出会えた自分も、とてつもない運を使ったのだろう。

 全ての運を使い果たしたといっても過言じゃない。



 レッドはプライベートでは、定職に就いていないらしい。

 怠けているというわけではなく、ボランティア活動をするためには、制限された職に就いているとやりづらいからだ。

 だから怪人が出て来ない時は、様々な地域に足を運んで人を助けている。

 イケメンジャーとしてだけではなく、個人としても人を救っている。

 そう簡単に出来ることじゃない。


 俺にとって、レッドは誇りだ。






「今日のクロは甘えただな。どうしたんだ?」


「んー」



 珍しいことにレッドはボランティアを休んでいて、基地に一日中いてくれるとのことだ。

 それがとても久しぶりだから嬉しく、俺は恥ずかしさとかそういった気持ちを捨てて、レッドにくっついていた。

 レッドも文句は言わず、俺の頭を犬や猫にでもするかのように優しく撫でてくれる。



「もしかして寂しかったのか?」



 ニヤリと笑ったレッドがからかいの含んだ感じで言ってくるが、俺は嫌な気持ちを抱かなかった。



「寂しかったって言ったら、面倒か?」



 むしろ素直に気持ちを吐き出せば、隣の顔が固まった。

 変なことを言ってしまったかと慌てれば、さっきよりも強い力で頭を撫でられる。



「クロはいい子だなー」



 まるで年下のような扱いだ。

 でも馬鹿にされているわけじゃない。

 むしろ心の底から言われているからこそ、こっちも素直に受け入れられるというわけである。



「レッド」


「どうした?」


「ありがとう。俺を拾ってくれて。そうじゃなかったら今頃……」


「クロ」



 レッドにはお礼を言ったところで足りない。

 だから気がつけば、何度だってお礼を言いたくなる。

 でも、レッドはそれがあまり好きではないようだ。

 言うと機嫌が悪くなるし、言う前に止められることもある。

 俺としては感謝の気持ちを伝えたいだけなのに、嫌がられるならと言わないように気をつけているが、たまに忘れて今みたいに言った後に後悔することがある。



「……ごめん」


「……俺こそごめんな! 怯えさせたいわけじゃなくて、なんかクロと壁を感じて寂しいだけだから!」



 怒らせてしまったかと謝れば、逆にレッドが慌てて俺を慰めるように頭を抱きしめてきた。

 そのままポンポンと頭を撫でられ、レッドにしては小さな声で囁いてくる。



「クロ。クロがいてくれれば、俺は頑張れるからさ。ずっと傍にいてくれよな」


「そんなの、当たり前だろ」



 レッドに拾われた身である俺には、他に居場所なんて無かった。

 怪人を倒した後は自立するつもりだが、それまでは離れた方が色々と危険だ。

 イケメンジャーにも迷惑をかけるだけだと分かっているから、レッドの言葉に当たり前だと頷いた。

 そうすればテンションの上がったレッドが、さらに抱きしめてくる。



「クロのことは、俺が守るからな!」


「それは嫌だ」


「ええ!?」


「守られるだけじゃなくて、俺だってレッドのことを守りたい」



 イケメンジャーや地球の人のことも守るが、俺が守りたいのはレッドと……



「本当か! それじゃあ守りあおうな!」


「うん」



 みんなの顔を思い浮かべている間に、感極まったレッドが俺の額にキスを落とした。

 地球の勉強をした時に、キスは親愛の証だと何かの本に書かれていたから、きっとこれも親愛からきたものなのだろう。


 俺からもした方がいいのかと顔を上げれば、とろけるような表情と目が合う。



「……れっど?」


「ん?」



 いつもと雰囲気が違う気がして、名前を呼べば首を傾げられた。

 どうしたのかと聞こうとした瞬間、怪人が現れたというブザーが鳴り響く。



「怪人が出たみたいだな! みんなは近くにいるらしいから行ってくる!」


「あ、ああ。気をつけてくれ」



 パッと雰囲気がいつも通りに戻り、俺は戸惑いながらも返事をした。

 未だに俺はロボットからの戦闘からしか参加出来ないから、レッドを見送るだけである。

 それが平気かと言われれば、平気なわけが無い。

 いくらイケメンジャーが強いとはいっても、怪我をすることだってある。

 モニター越しでしか見ていることが出来ないもどかしさは、あまりにも辛くて手のひらに突き立てた爪のあとが薄く残ってしまったぐらいだ。



「……気をつけて」



 一緒にはまだ戦うことは出来ない。

 だから気をつけてほしいという気持ちを込めて、俺はレッドが先程してくれたように背伸びして額にキスをした。

 やり方は間違っていないだろうかとレッドを窺えば、心無しか顔が赤い。



「レッド?」


「……あー、えっと、地球守ってくるから、クロはいい子で待っていてくれ」



 頭をぐしゃぐしゃにかき乱され、そして早足で去っていく。

 怒ってはいなかったので、これでやり方はあっているのだろう。


 今度は他の誰かにしてみようか。

 そんなことを考えながら、俺はみんなの様子を確認するためにモニターの方に移動した。





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