第6話 ピンクは味方





 ピンクは可愛い。

 こんな俺を最初から受けいれてくれたし、そしてこの世界で分からないことを根気よく教えてくれた。

 レッドは精神的に支えてくれたけど、ピンクの存在も俺の支えになったのは事実だ。


 ピンクまで俺に冷たかったら、イケメンジャーとしてはやっていられなかったかもしれない。

 クーちゃんとあだ名をつけられ、そして何故か可愛いと言ってくる。

 俺がこの世界で可愛いと言われる立ち位置じゃないことぐらいは、自分でも分かっている。

 むしろピンクの方が、そういう言葉をかけられるような容姿だ。

 言葉通りに受け止めることなく、ゆるキャラや壮年の男性に対して使う可愛いなのだろうと、そう思うようにしている。





「ねえねえ、クーちゃん。これ着てみてー!」


「……これは、俺が着るものなのか?」



 ピンクがいい人なのは分かる。

 分かるのだが、たまに反応に困る時があった。


 何が楽しいのか分からないが、俺に洋服やらアクセサリーを買ってくるのだ。

 それは基本的には普通のもので、とてもよく助かっている。

 でもたまに、俺が着ていいのかと言いたいようなそんな種類のものを買ってくる。

 今回持ってきたのも、そういうタイプだった。


 紙袋から取り出して広げてみた洋服は、冬に着るため用のモコモコとしたアウター。

 今のところ基地から出られないのに、こんなにも洋服をもらっても着る場所が無い。

 せっかく買ってもらったのを着られないのは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



「これ、俺よりもピンクが着た方が似合うんじゃないかな?」



 これは完全なる本心だった。

 俺は目つきが悪いし、最初の頃はブルーやグリーンに暴力団にいそうな顔をしていると言われたことがある。

 暴力団というのは地球でいうところの、あまり良くない組織の人間らしい。

 そういうところにいそうな顔をしているということは、可愛い形の洋服が似合うわけが無い。



「クーちゃんは分かってないねー。強面っぽいクーちゃんが、こういう可愛い系の洋服を着るのが良いんでしょー」


「そういうものなのか?」



 俺にはよく分からない価値観だ。

 でもピンクが期待した目で見てくるから、俺は着ていたジャケットを脱いで、持っていたモコモコの服を羽織る。

 俺は決して体が小さくないのだが、小さくは無くピッタリだ。



「どうだ? こんな感じで大丈夫なのか?」



 ピッタリだけど似合っているか分からず、ピンクの感想を聞くために両手を広げてみる。



「うんうん。思っていたとおり、とーってもよく似合っているよー」



 何が良かったのか、笑顔でオッケーサインを出された。

 似合っていると言ってくれたのなら、まあ良いか。

 モコモコは手触りも良く温かい。

 やわやわと触りながら微笑んでいれば、ピンクが鼻を押さえた。



「んぐっ。純粋可愛い。幼児? 幼児なの?」



 いつもより低い声で、ブツブツと呟いていて少しだけ怖い。

 たまにこういう時があるが、そういう時はそっとしておくのが一番だと学んでいる。

 そのまま落ち着くまで待っていれば、ピンクが深呼吸をして俺に向けてスマホのカメラを向けた。

 軽やかな電子音が鳴り、写真を撮られたのだと分かる。



「どうして写真を?」


「んー。みんなに自慢するためかな?」


「自慢?」



 俺の写真を撮って、なんの自慢になるのだろうか。

 全く分からないが、ピンクが楽しそうなので見守る。



「だって僕の買ってきた服をクーちゃんが着ているのって、こうグッとくるよね」


「そういうものか?」


「そういうものだよー」



 地球人にしか分からないような感覚なのかもしれない。



「クーちゃんって、怪人だった割には無防備っていうか、純粋というか……悪って感じがしないよねー。なんで人間を襲ってたの? 脅されてたとか?」



 それを聞かれると答えに困る。

 責められているわけじゃないけど、気まずいことに変わりはない。



「それ以外にやること無かったからかな……」



 あの星にいて将軍と会って、彼に付き従う以外の選択肢は無かった。

 この行動をおかしいと思うことすら無かった。

 俺のその考えの無さで、人を傷つけてしまったのは謝っても謝りきれない。



「悪かった」


「あー、ごめんね。謝って欲しかったわけじゃないんだー。ただ単に不思議だっただけ」


「……俺はピンクが言うほど、いい存在じゃない。むしろその逆だ。そんな俺を、どうしてそこまで信じてくれるんだ?」



 これは卑屈な考えじゃない。

 ずっと思っている事実だ。



「俺は……ここにいて本当にいいのか」



 優しくされすぎて怖いなんて、なんて贅沢なんだろう。

 仲間になってから、どんどん卑屈になってしまっている。



「何言ってるの」


「ど、どうした?」



 ピンクが怒っている。それもかなりの怒りだ。

 まさかそこまで怒るとは思わず、自然と俺は口元に手を当てて後ずさった。ピンクがそんな俺の姿を写真で撮ってくるが、何も言えなかった。



「なんかずっと悩んでいるなって思ったけど、そんなことを考えていたなんてね。全然気づかなかった僕も馬鹿だけど、クーちゃんも大概だよね」



 腰に手を当ててプンプンという擬音が似合うような怒り方だけど、今まで怒らせたことがないから戸惑う。



「みんなクーちゃんのことを仲間だって認めているからね。ツンデレとかで分かりづらいのもいるけど、クーちゃんのこと大好きだから!」


「お、おう?」



 圧で押されて思わず頷く。



「なんか、まーだ分かってないみたいだよねー。これはじっくり教えてあげなきゃ」



 ピンクの言葉通り、俺は他のメンバーが来るまでの間、どれだけイケメンジャーに好かれているのかというのを教えこまれた。

 ピンクは味方だけど、怒らせちゃいけない。

 その日、俺はその教訓を頭に叩き込んだ。




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