第5話 グリーンは癒し系





 気を許してもらえたと思った今も、ブルーはツンツンとしていて冷たい。

 でもたまに俺のためにお菓子をくれるから、嫌われてないと思いたい。


 ブルーは少しだけ優しくなったのだが、一番変化が大きかったのはグリーンだろう。

 イケメンジャーの中では一番大人しいタイプだと思っていたグリーンだけど、それは仲間に対してだけらしい。

 途中から入ってきた俺に、敵対心が一番強かったのはグリーンだ。

 直接何かをしてきたり言ってきたりはしなかったけど、いつも睨みつけてきた。

 まさか優しいグリーンにそういった態度を取られるとは思わず、本当にショックだった。


 そんな態度を取られて胸が痛み落ちこんでいた時には、レッドがよく励ましてくれていた。

 レッドがいてくれればそれだけでいいと、そう思った頃もあったけど敵を倒すのに必要なのはチームワークである。

 ある程度の仲間意識が無ければ、背中を預けられないし預けてもらえない。


 雑魚ならばまだしも、敵が強くなっていくとそうも言っていられない。

 イケメンジャーを含むヒーロー達の力の源は、仲間達との絆の深さだ。


 俺という異分子が入ってしまったせいで、内部は少しの綻びが出来た。

 レッドの求心力が弱まることは、イケメンジャーにとって、あってはならないことだ。

 だからグリーンと仲良くするべきだと考え、俺は作戦を実行することにした。



 タイミングよくグリーンと基地に二人きりになったのは良いが、話しかけるきっかけが見つからない。

 何をしているのか知らないけど、大きな体を縮こませて俺から一番離れた自分の席から全く動かなかった。

 声をかけようと思っても、俺のそんな考えを察知しているかのように話しかけるなオーラを出された。

 他の誰かがいる時は、率先してお茶を用意したりしているから、これは俺だけに対する態度というわけだ。



 なかなか敵も手強いとそっと様子を窺っていた俺は、グリーンの手元にいる存在に気がついた。



「それは、ネコというものか?」


「っ!?」



 急に話しかけられて驚いたのか、こちらを勢いよく振り向いたグリーンは、完全に警戒心マックスだった。

 でも俺は初めて生で見る猫に感動して、それどころじゃない。


 映像で見たことがあるから存在は知っていたけど、実際に見ることは戦闘以外に基地から出られないから無理だった。

 しかもその時、グリーンにあやされていたのは子猫で、あまりの小ささに本当に生きているのかと思ったほど可愛らしかった。


 可愛い子猫をもっと近くで見たくてフラフラと近づく俺に、グリーンは庇うように腕で囲んだが狭い部屋の中では逃げ場が無い。

 乱暴にしない程度に強引に手元を覗き込めば、気配を感じた子猫がこちらを見上げた。

 人に慣れているのか、俺を見ても逃げることはせずに、軽く首を傾げる。


 にー、そんなか細い鳴き声に、庇護欲というものを誘われた。

 映像で見ていた時から気になっていたのだ。

 生で見て、触ってみたいという気持ちが湧き上がってくる。



「触るのは、駄目か?」



 あまりの可愛さに興奮して、つい聞いてしまった。

 どう考えても、触らせてくれるわけが無い。

 でも少しでいいから撫でてみたかった。


 子猫は人懐っこい性格のようで、未だににーにーと可愛らしく鳴いている。

 このぐらいなら、数秒ぐらいは大丈夫じゃないか。

 もう二度とこんなチャンスは巡ってこないかもしれないから、すがるような視線になってしまう。



「そ、そんな顔をされても」



 ようやく会話をしてくれたが、それは否定的な言葉だった。

 俺を信用していないのに、触らせてくれるわけがないか。

 あまりしつこいと更に嫌われるだけなので、諦めて席に戻ろうとした。



「あっ、こらっ」



 背を向けた途端、グリーンの焦った声が聞こえてきたかと思えば、腰の辺りに軽い衝撃が走った。

 なんとなく犯人が分かったので、ゆっくりと極力動かないように腰を見てみれば、子猫と目が合う。

 俺を見てにゃーと大きな口を開けて鳴くと、俺の体を壁に見立てたのか、爪を立ててよじ登ってくる。



「あ。待てって。危ないから、こっちにおいで」



 グリーンが子猫に必死に話しかけているが、全く聞く耳を持たず、物凄いスピードで肩まで辿り着いた。

 まるでそこが定位置とでも言うように、自信満々の様子で鳴くから、思わず笑ってしまった。



「よくのぼったな」



 肩にのぼったのだから、撫でても平気だろう。

 そう考えて褒めつつ頭を優しくを意識して撫でれば、目を細めて受け入れてくれた。


 可愛い。

 胸が苦しくなるような可愛らしさに、撫でる手が止まらない。

 顔が緩んでいる自覚はあるが、それでも今は撫でることが最優先だ。



「……猫好きなんですか?」



 撫でるのに夢中になっていて、グリーンの存在を忘れていた。

 怒られるかと一瞬身構えたが、声に今までのような棘がなかった。



「そうだな。テレビで見ていて気になっていた。だから本物を見られて、とても嬉しい」


「……そうですか」



 子猫を撫でる手を止めずに答えれば、グリーンが優しい表情で俺の手に自身の手を重ねる。



「僕、あなたのことを誤解していたみたいです。すみません」


「い、や。大丈夫だ。ち、近くないか?」


「そうですか?」




 この出来事がきっかけで、グリーンとは急速に仲良くなった。

 グリーンは動物が好きらしく、俺に色々な動物の写真やたまに本物を見せてくれる。

 そのどれもが可愛くて癒されていれば、グリーンもとても嬉しそうにしている。

 俺にも優しくしてくれるようになって、イケメンジャーの空気も改善されたので、目標は達成された。





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