第3話 クロの気持ち
ここでの俺は異物だ。
初めは地球を征服しようとしている別の星の軍にいたが、今は訳あってイケメンジャーの一員として戦っている。
クロという地球での名前までもらい、イケメンジャーのブラックとして活動しているが、いくら人間のふりをしたところで過去が消えるわけが無い。
たくさんの人を傷つけて来たし、イケメンジャーのことも本気で殺そうとした。
みんなは優しいから気にするなと言ってくれるけど、俺はいつも自分が部外者のような感じがしている。
優しくしてもらうたびに、こんな俺にどうして優しくしてくれるのだろうと疑問に思い、そして怖くなる。
俺はみんなに優しくしてもらえるような立場にいるべきじゃない。
このまま一緒にいるだけで周りを不幸にするし、全てを知られればみんなに軽蔑される。
それでもまだこの場所にしがみついているのは、他に居場所が無いからだ。
軍を裏切った時点で、向こうではお尋ね者である。
俺の首には絶対に懸賞金がかけられている。
その懸賞金が目当てや、裏切り者に厳しい奴らが、血眼になって俺のことを探しているだろう。
だからこの前の戦闘中に正体がバレた時は、心臓が止まるかと思った。
そのまま逃げられれば、イケメンジャーにいることがすぐに広まってしまう。
もしも将軍にまで伝わってしまえば、一巻の終わりだと、顔には出さなかったが本気で死を覚悟していた。
相手が格下だったおかげで、敵を倒すことが出来、秘密は守られたがそれも時間の問題だ。
そのうち幹部候補が現れれば、ロボットでの戦闘のみとは言ってられなくなる。
スーツで顔が隠れるとはいっても、相手には分かってしまう。
その前に何とかしなくては。
ずっと解決策を探してはいるが、見つかっていない。
グズでノロマなのは、ここに来ても相変わらずか。
こんな俺を未だに仲間として扱ってくれるみんなのは、感謝してもし足りない。
怪人として生きていた頃は全く気づいていなかったのだが、イケメンジャー達はとても容姿に優れているらしい。
街に出れば女子に騒がれるし、プレゼントが毎日山のように届いている。
イケメンというのが、容姿が整っている人間に対して使う言葉だというのも最近知った。
その中の一員に俺も入っていていいのか疑問に思うけど、ピンクからは自信を持てと言われている。
俺が所属していた軍も、将軍を始め容姿には優れていたから、そういうのが選考理由に入っていたのだろうか。
将軍のことを思い出すと胸が痛む。
そんな時は、まるで俺の気持ちを読み取ったかのように、レッドがそばに来てくれる。
あの人は、本当に凄い。真のヒーローというのは、あの人のことを言っているのだと思う。
あの人ならば、もしかしたら将軍を……。
期待すると駄目だった時の落胆が大きいから、それは考えないようにしている。
◇◇◇
「なーなー! クロって食べ物で何が好きなんだ?」
敵が来ることなく、今日はレッドと俺しかいなかった。
話しかけてくるまで筋トレをしていたのだが、ちょうど休憩をしようとしていたところだったので、持っていたダンベルを置く。
レッドが、このように突然話しかけてくることはよくあるから、別に驚きはしなかった。
好きな食べ物か。
レッドが聞きたいのは、ここに来てから好きになった食べ物のことだろう。
敵だった俺の待遇は、ありえないぐらいに良い。
俺のことを甘やかす筆頭であるレッドは、太らせようとしているぐらい色々なものを食べさせてくる。
今まで味わったことの無い食べ物が、地球にはたくさんある。
自分の好みに合うもの、もう二度と食べなくてもいいかと思うもの、その中で特に感動した食べ物といえば……。
「……卵焼き」
「卵焼き? どうしてだ?」
どうしてと言われると、答えは一つしかない。
「……初めて作ってくれただろ。美味しかった」
あの日、一緒について行くと決めた時に、ここでレッドが作ってくれた。
今思うと所々焦げていたけど、それでも温かくて涙が出てしまうぐらいに美味しかった。
「出来れば……また、食べたい」
あれから、多分もっと美味しいと言われるようなものは何度か食べてきた。
でも感動するほどではない。
「あんなので良かったら、いくらでも作ってやるよ! 百個でも二百個でもな!」
「いや、そんなにはいらない。たまに、特別な日にでも作ってくれれば、それだけで……嬉しい」
「そうかっ!」
俺の言葉のどこに喜ぶポイントがあったのかは分からないけど、レッドは満面の笑みを浮かべて頭を撫でてきた。
前から思っているのだが、レッドは人の頭を撫でるのが好きみたいだ。
暇さえあれば撫でてくるから、触られるのに慣れるまでは大変だった。
今は慣れてきたから手を振り払うことはなくなり、その代わりに触られるたびに胸がムズムズとして口がニヤけそうになるから困っている。
この甘やかされる時間は、決して嫌じゃない。
むしろ幸せを感じることが出来、手離したくないと心の底から思っている。
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