第2話 イケメンジャーブラック





「いやー、まさかクロのことを知っている怪人だったとはな」



 イケメンジャーの拠点は、ビルが建ちそびえているところの地下深くにあった。

 細部にわたって最新技術が使用されていて、ちょっとやそっとの攻撃ぐらいではビクともしない造りになっている。


 メインとなる部屋は三十畳ほどの広さで、街の様子が見ることが出来る複数のモニターと、5人のヒーローのためのテーブルとイス、そして司令官のためのグレードアップしたテーブルと椅子が置かれていた。

 その他にも、各々が持ち寄ったお菓子やトレーニング器具、学生のメンバーの勉強道具がある。そして何故か様々な種類の野菜や花、誰が面倒を見ているのか全てが生き生きとしている。愛情を持って育てられているのが、とてもよく分かる。


 それぞれの生活スタイルに合わせて、出勤時間はバラバラだが、怪獣が現れた際はよほどの事情が無い限りは全員に集合がかかる。ヒーローとはいえプライベートはきちんと確保されているわけだ。

 しかしブラックはここで居住しているので、その限りではない。




 今日は珍しく全員が揃っていて、先日の戦いの反省をしていた。

 反省するべき大きな課題は一つ。

 怪人がブラックのことを知っていた。たったそれだけかもしれないが、イケメンジャーにとっては大問題だった。



「そうだな。良くも悪くも、ブラックは向こうの幹部という立ち位置で目立っていたから、そこそこの立場だったら姿を知っていても不思議じゃない。だからあえて、ロボットでの戦闘になった時だけ来てもらっていたが、まさかその姿を知っている怪人がいたとは予想外だった」



 レッドこと赤月あかつきただしの言葉に、ブルーこと青村あおむらともが冷静に返す。

 そのやり取りを聞きながら、ブラックことクロは肩身が狭そうに身を縮めた。



「そんなの誰にも分からなかったんだからしょうがないじゃん! そんなにクーちゃんを責めちゃダメだよー! 可哀想に、こんなに縮まっちゃって。ともちーが怖かったね。よしよし」



 そんなクロの頭を、ピンクこと桃澤ももさわれいが小さい子供にするように、よしよしと言いながら撫でる。

 しかしそのせいで、さらにクロは縮こまった。



「別にクロを責めてるわけじゃない!」



 涙目になったクロを見て、慌ててレッドがフォローするが、沈んだまま重苦しい空気は変わらない。



「クロさんは何も悪くないですよ。それにいつかはバレていたことですから」



 ピンクだけでは足りない、そう考えたグリーンこと緑島みどりしままさるが出て来て慰める。



「……申し訳ない。ただでさえ迷惑をかけているのに、気まで遣ってもらって……」



 そのおかげで少しは回復したのか、クロは低い声でボソリと謝罪した。



「迷惑だなんて思ってないよー。むしろクーちゃんは頼らなすぎ。もっと頼ってくれて良いんだからねー」


「……ああ」



 それはピンクにとって心からの言葉だったが、残念なことにクロは社交辞令としてしか受け止めなかった。

 自己肯定感の低いクロにどうやって自信を持たせるかが、最近の課題だった。

 そんなみんなの気持ちを知らず、クロは優しさに申し訳なくなる。



「とにかく敵は倒したから、ブラックの情報はまだあちらの手には渡っていないだろう。だからといって油断は出来ない。そろそろ将軍とやらも行動を起こす頃合いだからな」


「分かってる! ちゃんとクロも世界も守れば安心だろ!」


「お前のその楽観的な考えは、現実をきちんと理解しているのかと聞きたくなるが、今回はそれで合っている。俺達は世界はもちろんブラックのことも守る必要があるな」



 ブラックが仲間になった経緯は知らないレッド以外のメンバーだったが、ブラックが重要な立ち位置にいることは把握していた。

 そのためブラックが最優先事項というのは共通認識であり、ピンチの際は命を捨てる覚悟だった。

 しかしブラックが悲しむのは目に見えてるいので、それは最終手段ということになっていた。

 もちろんブラックには伝えられていないことだ。



「どちらにしても、全員倒せばクロが怖がるものは無くなるし、そうすれば今みたいに隠れる必要も無くなるだろ! それまでクロは少しだけ我慢してくれよな」


「……ん」



 レッドは力の加減を全くせずに、ブラックの頭を勢い良く乱雑に撫でた。

 髪の毛が数本抜けるぐらいの加減の無さだったが、された方はと言うと頭を押さえて嬉しそうなオーラを出している。

 しかし基本的に無表情なため、傍目からはその違いは読み取れない。


 元は怪人というブラックだが、仲間からはこのように好意的な感情を向けられていた。

 問題があるとすれば、それが当の本人に全く伝わっていないことである。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る